2008年11月24日月曜日

ノンタイトル〜本編1〜

2008年11月24日 月曜日

あと、1ヶ月でクリスマスが来る。

今までの僕のカレンダーには

全く無関係なイベントだ。

それは、今年も同じだろう。

だから、このクリスマスまでの1ヶ月は

僕にとって、毎年乗り越えなければならない大きな憂鬱だった。

しかし今年は、少しだけだが変化があった。

彼女と最後に会ったのは、先週の水曜日。

あの日から、今日まで気分が落ち着く事がなかった。

こういう感じは、初めてだったから

僕は、早く誰かに話を聞いてもらいたくて仕方なかった。

相談できる唯一の友達といえば

同じ学部の、剛志ぐらいしかいない。

残念ながら、あいつはオーストラリアに短期留学中だ。

帰国の予定日は、12月5日の金曜日だ。

僕には、遠い未来に思えるぐらい

それを長く感じた。


先週の水曜日。

自分から、彼女に会いたくて図書館に行った。

しかし逆に彼女の方から声をかけられて

虚をつかれてしまった。


「この間、私のあくびを見たでしょう!」

彼女の口調は少し怒っていたが、

その目は、笑っていた。

「ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ」

咄嗟にでた言い訳は、良くもなく悪くもなく

パッとしない言葉だった。

まるで、自分のようだなと思った。

「大あくびをみられた、女の子の気持ちをわかってるの?」

「いや、わからない。でも本当にごめん!」

女性とほとんど接した事のない僕に、女性の気持ちなんて

これっぽちも理解できる、引き出しなどなかった。

「あー、でもあなたにきちんと言えたから何かすっきりした気分。」

「あなたも、これから読書のするの?」

「あー、これが借りたくて。あっでも借りたら急いで帰らないと」

僕は、この緊張から早く逃げたかった。

右手に持っていた本は、彼女が通り過ぎる際に

咄嗟に、取り出した本だった。

自分の右手に抱えられている、本のタイトルなど知る訳もない。

二人の目が、僕の持っている本へ向けられた。

「臨床免疫学」

というタイトルの本を手にとっていた。

臨床?

免疫?

どうせなら、女性免疫学を学びたいぐらいだ。

一瞬やばい!?と思った。

その瞬間、予想していた言葉が響いてきた。

「あなた、医大生なの?」

「あっ、別にたいした事ないけどね。」

「すごいじゃん!じゃあ、お医者さんの卵って事ね!」

「卵っていうか、まだ卵も生まれてないっていうか」

この展開は、まずいと思った。

しかし、ここで笑い話やジョーダンに

話を転換できる程、弁がたつ男ではない事はわかっていた。

「とにかく、僕 急いでるからそろそろ行かなくちゃ。」

「あっ、そうね。ごめんなさい、引き止めちゃって。」

僕は、後悔している。

まだ、目の前に彼女がいる内に誤解を解いておかなければ。

でも、気持ちとは裏腹に僕の体はこの場からいち早く立ち去りたがっていた。

「じゃあ、行くね。」





あれから、今日まで罪悪感でいっぱいだ。

でも、もう彼女とは関わらなければ

いつの間にか、僕の存在と共にあの嘘も消えて行くだろう。


明日は、火曜日だ。

毎週の日課である、図書館での読書日だ。

なるべく、彼女に会わないようにしよう。

階段をつかって、席も彼女からなるべく離れた席で。

でも、明日彼女が来ると決まっている訳ではない。

「そうだ、彼女はいないよ。」

呪文のように、自分に言い聞かせた。

その呪文は、少しだけ僕の胸のつっかえを和らげてくれた。













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