2008年12月28日日曜日

141。

こんばんは!

年末は、なんやかんやと忙しい。

部屋の掃除や車の洗車やユニクロでヒートテックを買わなきゃとか。

歯医者にも行っておきたいし、独り映画館にも行きたいし

銀行にも行かないといけないし、ゴルフの練習も行っておかないととか

それに今日はゴルフのコースで朝早かったとか。


そう。

今日は2度目の本コース!

まわってきました。

18ホール。

デビュー戦は167!?

多分それぐらいでした。

なんと今日は!?

141。

微妙ですね。

前半は66で上がって

もしかしたら120行くかも!?と思っていたのですが

後半、暴風と寒さにやられて結局75もたたいてしまいました。

それで141。

恐らくもう少し暖かい季節になったら100も夢じゃないかも?

とちょっとだけ妄想している、今この頃。

ちなみに一緒に行った、まっつさんは91ぐらいだったと思います。

それでもまっつさんの今日の調子はあまり良くなかった所がすごい。

家に帰宅したら20時でした。

今日は早い目に寝て、明日の仕事に備えたいと思います!

それではみなさん、おやすみなさい!



2008年12月25日木曜日

歳を重ねても。

今日もまたまた、メリークリスマス!

クリスマスも今日で終わり。

明日からは、正月へ向けて一気に加速して行きます!

早いですよ。

あっという間に2009年です。

ちなみに、今日は大荒れの天気です。

風と雨。時々雪。

明日は雪が降りそうですね。

みなさん、足元に注意して出勤して下さい。


今、小田和正のライブが放送しています。

小田さん、すごいですね。

こんなに歳をとっても、パワフルでかっこいい。

そんなかっこいい、歳のとりかたに憧れちゃいます。

みなさんは10年後、20年後どんな風な大人になってるのでしょうか。

あんまり想像できないですよね。

私もできません。

来年は私も30歳になります。

自分が30歳になるなんて、今も想像できません。

どんなに時が過ぎても、自分自身が大好きと言えるように

日々、心がけて仕事にプライベートに頑張って行きたいと思います。

なんか来年の豊富みたいな感じになってしまいましたが

みなさん、明日も頑張りましょう!

それでは、おやすみなさい!

2008年12月24日水曜日

☆メリークリスマス☆

メリークリスマス!

本日はクリスマス☆イヴです!

ホワイトクリスマスにはなりませんでしたが

みなさん、楽しいひと時をお過ごしでしょうか。

私は本日、サンタさんよりネット復活のプレゼントをもらいました!

ちなみに帰宅後、2時間 悪戦苦闘の末めでたく復活。

で!?

本日より、のほほん工房は全速力で走って行きますので

みなさん、また宜しくお願いします!


〜収集癖〜

昔から何か集めたくて仕方がない衝動に駆られ時があります。

みなさんには、以前報告致しましたが

私、たばこを替えました。

新しく出た、マルボロの1mgのフィルタープラスというたばこに。

で、この間までたばこを買うとライターが付いてくる

美味しい特典があったのですが・・・。








だいぶ集まっちゃいました!?

コンビニによって置いてあるライターが異なるので

全部、揃えるのに苦労しました。

しかし!?

普段は100円ライターを使ってます。。。

なんか、ずっと小説を書いていたせいか

前に普通に書いていたブログの時とは何か違う

違和感を感じながら、文章書いてます。

文章が固い!?

そう、何かそんな感じが。

普通のブログの書き方に慣れるのに多少お時間頂きますが

明日もまた、観て下さいね!

それでは、おやすみなさい!

ちなみに今日の晩ご飯、藤一番でラーメンと天むすセット。





まだ。

こんばんは!

インターネットがまだ直りません。

今日も携帯電話から、失礼致します!

いつになったら直るのやら我が家のインターネット。
という訳で、明日またチャレンジしたいと思いますので

もうしばらくお待ち下さい!

それでは、おやすみなさい!

2008年12月23日火曜日

残念なお知らせ。

こんばんは!

のほほん工房のお時間でしたが、

残念なお知らせがあります。

パソコンの調子が悪く

ネットに接続できなくなってしまいました。

また明日、頑張って治すので

もう少しお待ち下さい!

それでは、おやすみなさい!

2008年12月20日土曜日

ありがとう。

こんばんは!

みなさん!長い間、私の小説にお付き合いしてくれて

本当に有難うございました。

毎日、毎日けっこう大変でしたが

なんとか無事に第1部が完結しました。

途中、くじけそうにもなりました。

もうやめてしまおうと何度思った事か。

でも、みなさんの応援のおかげで最後まで

書き終える事ができました!

初めて書いた小説だったのですが、

小説ってやっぱり難しいですね。

プロと素人では、大きな差があるなと

毎日書きながら、痛感させられっぱなしでした。

次は、第2部へと続くのですが、

当分、小説はお休みです。

なぜなら、全部書き終わってから

みなさんにお届けしたいからです。

さすがに帰宅してからの1、2時間で書ける程

小説は甘くありませんでした・・。

一応、正月あたりに執筆して来年 年が明けてから

発表できたらなと考えておりますので

楽しみに待ってて下さい。

今後は、また通常通りの

くだらないネタの のほほん工房に戻りますので

みなさん、楽しみにしていて下さい。

明日、あさっての土日のブログは、

久し振りにお休みさせて頂きます。

小説に全エネルギーを使い果たしてしまったので

少々、充電したいと思います!

裕作と、真白。

二人はどうなるのでしょうか。

私も今からわくわくしています。

ちなみに今日は、一人で映画に行ってきました!

「252 生存者あり」

という伊藤英明主演の映画です。

映画館には私を含めて5人しかいませんでした。

でも久し振りにゆったりした時間を過ごせて良かったです。

コーラは飲んだけど、ポップコーンを食べませんでした。

それでは、おやすみなさい!

みなさん、良い週末を!

あとがき。

思い出深かった 香水の匂いによって、5感を刺激された裕作が

その後、徐々に過去の記憶が蘇り

点と点が、1本の線となって繋がっていく。

そして恋心を抱いていた相手が初恋の相手だった。

しかも、自分の家族を殺した犯罪者の娘。

もしあなたに本当にあったとするならば、

どんな結末を迎えていたでしょう。

超越した想い。

この世にそんな愛があるのでしょうか。

冷静な時にはそんな愛がある訳がないと思っていても

いざ、恋に堕ちると無償の愛や真実の愛がそこにあると

本当に思ってしまったりする。

今回、裕作と真白は二人結ばれる結末となりました。

犯罪者の娘と結ばれるなんて

普通はあり得ないという意見もあると思いますが

恋をすると、人はどんな行動をするか予測がつかないものだと思います。

それが例え、犯罪者の娘でも!?

しかし真白は普通の女性ではなく

幼ななじみで裕作の心を開いてくれた唯一の存在という背景が

あったからこそかもしれませんが。

さて、次は第2部。

二人のこれからの運命。

そして新たに現れた、もう一人の悪魔。

一体、この先どうなってしまうのか。

みなさん、楽しみにしていて下さいね。








2008年12月18日木曜日

ノンタイトル~最終話~

2008年12月17日 水曜日

相模原駅で電車を下りた。

外は少し冷えて来た。

人ごみをすり抜けて、改札口を出ると

すぐに花屋に向かった。

墓前に供えるためだ。

準備の整った僕は、墓地へと向かった。

冷たい風が、僕の頬をさす。

今日は、僕の家族の命日だ。

しかし、それは真白の23歳の誕生日でもあった。


墓地は、静まり返り寂しげな雰囲気に包まれていた。

奥から3列目。

真ん中の通路から右に3つ目の墓。

僕は記憶を辿りながら、お墓の前についた。

高橋家之墓。

そう、ここに僕の家族が眠っている。

あの日、人生の時間を人為的に止められた3人が。

僕は墓前で手を合わし、目を閉じた。

「父さん、母さん、みのる。

 僕はちゃんと胸を張ってみんなに顔むけできるような人間だろうか。

 僕は無駄な人生を過ごしてしまった。

 せっかく父さんと母さんからもらった命。

 そして、3人からもらった命。

 僕は、それにふさわしい人生を送って来れなかった。

 自分の心が弱かったばかりに。

 それに僕は、大切な人までも傷つけた。

 僕は最低な人間です。

 でも、今からでも変われるのかな。

 今からでも、遅くはないのかな。

 父さん、母さん、みのる。

 教えて欲しい。

 それにこんな僕を、父さんと母さん、みのるは許してくれるのかな。」

ふたつ合わせた僕の手は、悲しみに打ち震えていた。



「今度は、私が守るから!」

一瞬、声が聞こえた。

僕は、ゆっくりと目を開け声の聞こえた方に目を向けた。

「真白!?」

僕は、息を飲んだ。


そこには、まぎれもなく彼女が立っていた。

僕は目を疑った。

彼女の今にも溢れそうな涙が、そのきれいな目を一層輝かせていた。

もうすでに僕の頬には、涙がいく筋にもなって流れていた。


僕の涙は、止まらなかった。

真白はゆっくりと僕の方へ近づいてきた。

そして僕の前で立ち止まった。

彼女の目にも、涙が溢れてた。

その雫たちは頬をつたって流れおちていた。

そして彼女は自分の両手を、僕を包み込むように背中へとまわした。

それはまるで母の胸で泣いていた時の、あの感触のようだった。

人の温もりが、こんな程にも温かい事を僕は忘れていた。

真白の体の温もり。

それは、彼女の優しさの温度だった。

「真白、ごめん。本当に。おれは・・」

僕の言葉は、まるで言葉にならなかった。

僕は、真白の中で声を上げて泣いた。

今まで押し殺して来た全てを、放出するかのように。

僕の心は自由を取り戻していた。

だから真白の前でも涙が止まらない。

あの日以来、初めてだった。

こんなにも自然に涙が込み上げてきた事が。


「ゆっくり歩いて行こ。

 無理しなくていいんだから。」

真白のその言葉も、

真白のこの香りも、

全てが僕を優しく包み込んでくれていた。







2008年12月24日 水曜日

これで終わりじゃない。

これが始まりなのだ。

そのために、どうしてもしておかなければならない事があった。


徐々に、見えて来た。

あれが、そうだ。

横浜市郊外

あそこに真白の母親がいる。

建物の周りは大きな塀と鉄柵で囲まれていた。

僕は、どうしても真白の母親に会う必要があった。

彼女の母親の謝罪を受け入れるために。

それで全てが終わるのではない。

これで、新しい未来が始まるのだから。

僕の目に映る景色。

それは全てが色鮮やかに見えた。

空の色。

草木の色。

花の色。


その全てが、まるで僕の住む世界が変わったかのように美しく映っている。


「本当に大丈夫?」

「大丈夫。もう心配いらないから。」


僕は、ふと空を見上げた。

小さい雲たちがつらなって、追いかけっこをしているように見えた。

僕は本当の意味での強さが、やっとわかった気がする。

それに気付くのには、あまりにも長い時間が過ぎ去ってしまった。

しかし彼女がいなければ一生、気付けなかったかもしれない。

いや、気付けなかったに違いない。


僕はふと自分の左手をみた。

その手は、しっかりと彼女の手を握っている。

彼女の笑顔とこの香りは、今も僕を包み込んでいた。















そして3年後。

「高橋、あの原稿の情報収集は終わったのか?」

葉山主任が言った。

「すみません、今からやります!」

大学卒業後、僕は新聞社に入社した。

やっと、仕事にも慣れてきた所だ。

「じゃあ、資料室に行って来い。」

「はい!」

僕は資料室へ向かった。

資料室に着くなり、次に書く原稿に必要な情報を集めていた。

僕は、もう10年程前のゴシップ誌をぱらぱらとめくっていた。

すると、あるページで目が止まった。

”スクープ!母親を悪魔に変えた、もうひとりの悪魔!”

僕は、その記事に目を通し始めた。


「1996年12月17日

 前文省略

 勤務していた病院の同僚からの証言によると

 事件の1年程まえから、広瀬雪乃容疑者と交際していた男性がいたという。

 しかし、その男は事件の1週間前に広瀬雪乃容疑者の前から姿を消した。

 そしてその男は、広瀬雪乃容疑者の財産をだまし取った疑いが浮上している。

 それが引き金で、あの悲惨な事件が起きてしまったのか。」



「こんなゴシップ誌を誰が・・・信じるもんか。」

しかし僕の中から、とてつもない怒りと憎悪がこみ上げていた。

雑誌を持つ僕の手は、怒りで打震えている。


僕はその雑誌を手に、カバンと上着を取りにデスクに戻った。

主任には、取材に行くと言い残して僕は会社を出た。

向かった先は東京。

僕は携帯電話を取り出し、発信ボタンを押した。

その相手は真白だ。

「やっと見つけたよ、全ての悪の根源を。」


僕はこの時、まだ知らなかった。

あの事件の本当の終わりが、これから起こる事を。




〜ノンタイトル 第1部 完〜























 






2008年12月17日水曜日

ノンタイトル~本編22~

2008年12月17日 水曜日 第1幕

あれから1週間が経った。

僕はあの日から、新しい自分になるはずだった。

僕は変わったのだろうか。

確かに昔の夢でうなされる事もなくなった。

しかし、心の中にぽっかりと穴が開いたようなという言葉が

今の僕にあてはまる表現だった。

片瀬雪菜との出会い。

あの時の、僕の心はキラキラ輝いていた事は

変えられない事実だった。

たくさんの想い出が、僕の脳裏に今も焼き付いている。

そう、真白と過ごした時間。

しかし、僕の家族は彼女の母親に殺された事も

変えられない事実だった。

僕の中に、悲しみに似た感情がこみ上げてくる。

しかし僕の中にあった涙の泉は、あの日以来 枯れたままだった。

そんな僕に、涙など流れるはずがなかった。

僕は流れる景色を車窓から眺めていた。

僕の目に映る景色は、まだセピア色のように褪せたものだった。


あと15分程で新横浜駅に到着する。

12月17日。

あの事件が起きた日。

つまり僕の家族の命日だ。

僕はこの日、家族のお墓参りに行く事を決意した。

新横浜駅に着いた僕は、電車を乗り継いで家族が眠る墓地へと向かった。

その途中に通る町田駅は、僕の住んでいた街だ。

僕は事件以来、あの街に足を踏み入れた事がなかった。

踏み入れる事ができなかった。

そして僕の乗っていた電車は、成瀬駅を出発した。

次は、町田駅だ。

しかし、もう終わったんだ。

僕は町田で降りる事を決意した。

「もう大丈夫。」

僕は自分自身にそういい聞かせた。


電車を降りると僕は、家族と過ごした想い出の家へと向かった。

20分程、歩くと僕が通っていた小学校が見えてきた。

校舎、体育館、運動場はあの頃のままだった。

運動場には、仲良く遊ぶ子供たちの姿がみられた。

僕は頭の中で、遊んでいる子供たちの姿と昔の僕らの姿をかぶらせていた。

真白と一緒に歩いて通っていたこの道もあの頃のままだった。

そして次の角を曲がると、いつも真白と遊んでいた公園がある。

僕は、その角を曲がった。

「じゃあもう1回、いくぞー!」

公園で遊んでいる男の子が、女の子に言った。

「いいよー!」

男の子は、ドッジボールを力いっぱいに投げた。

「痛っ!」

女の子が言った。

女の子はつき指をしたようだ。

すると、女の子は座り込み泣いてしまった。

「大丈夫か!?」

すぐに男の子が駆け寄った。

女の子は泣いている。

「大丈夫か?どこけがした?

 みせてみろよ!」

男の子は、本当に心配そうな表情だった。

「よし!水で冷やそう!」

女の子を立たせて、水飲み場へ一緒に歩いていった。


「真白、大丈夫か!?」

真白が、足をすりむいて泣いている。

「よし!一回、水で流して砂を落とそう!」

裕作は真白を立たせた。

「水飲み場まで歩けるか?」

「うん、大丈夫」

裕作は、真白に肩を貸してあげた。

「水で洗い落としたら、家に消毒しに戻ろうな!」

「うん、わかった。」


あの時の光景が鮮明に蘇って来た。

「真白・・・。」

でも全ては終わったのだから。

終わらせたのだから。

僕は公園を跡にした。

12年振りだった。

僕は家族で過ごした思い出のつまった家の前に来た。

しかし僕の住んでいた家は、そこにはなかった。

家は建ち変わり、”水野”という表札に変わっていた。

だが、あの家族と過ごした楽しい思い出は今でも僕の脳裏に焼き付いている。

「父さん、母さん、みのる・・・。」

2軒向こうに、目を向けるとそこは空き地になっていた。

真白が住んでいた家のあった場所だ。

空き地の前に立つと、”売地”と書いてある看板がたてられていた。

ここで、殺された。

12年前の今日。

僕は今まで、どんなに辛い思いをしてきたか。

しかし、今僕はこうやってこの地に立ち

家族の死とまっすぐ向き合えるようになっていた。


「だって、たった一人の母親なんだもん。」

ふとあの時の、真白の言葉が蘇った。

そう、彼女もここで姉さんの命を奪われた。

それに、自分自身も殺されかけたのだ。

それも、大好きだった母親に。

真白が僕にみせた、母親につけられた傷跡。

彼女はこの12年間、ずっとあの傷をみる度に思い出していたに違いない。

それなのに僕は、ずっと家族が死んだ事実から逃げて生きてきた。

逃げながら生きてきた僕よりも

逃げずにあの過去と向き合って生きて来た真白の方が

ずっと辛かったに違いない。

その瞬間、僕は自分がなんてちっぽけな人間なんだろうと思った。

真白。

彼女は、僕の心の中でずっと閉ざしていた扉を

開けにきてくれた。

そう、僕の心の扉の鍵を持っていたのは

この世でたった一人、真白だけだった。

僕は彼女に救われていた。

その時、メールの着信音が鳴った。

メールは、剛志からだった。

「自分で自分を決めつけるな。

 自分の気持ちにもっと素直に生きろ!

 家族のためでも何でもない。

 もっと自分の人生を生きるべきだ。
 
 自分で自分自身を苦しめるのはもうやめよう!

 気を付けて行って来いよ!」

昨日の夜、剛志と会った。

そして僕は今あった全てを剛志に打ち明けた。

その時、剛志は熱心に聞いてくれた。

しかし、彼からの意見はその時は何もなかった。

唯一かけてくれた言葉が、今日のお墓参りの提案だった。

剛志はずっと考えていてくれたのだ。

剛志からのメールは、今の僕の心に染み渡るように伝わった。

こんな僕のために。

僕は、自分を悲劇の主人公だとずっと思い込んでいた。

まるでこの世にたった一人で取り残されたかのような。

自分だけが世界中の不幸を背負い込んでいるかのような。

家族を失う事は、身が裂けるような思いだった。

確かに、辛く苦しい時間を過ごしていかなければならない。

でも、不幸なのは世界中で僕だけではないはずだ。

病に苦しむ人々。

飢餓で苦しむ人々。

そう、未来を夢見るどころか明日さえ見えない人々がいる。

僕がその気になれば、未来を夢見る事ができる。

毎日、健康に食事ができる。

それに僕の事を想ってくれる仲間がいる。

そして何より、そんな僕の閉ざした心に真白は優しく触れてくれた。

そんな彼女の心を僕は傷つけた。



僕は自分の人生を生きて行く。

誰のものでもない。

高橋裕作の人生を。


2008年12月16日火曜日

ノンタイトル~本編21~

2008年12月10日 第5幕

ある日、真白のお母さんが家にやってきた。

「真白とけんかしちゃって、いないのどこを探しても。

 裕作くん、心当たりない?」

真白のお母さんの不安げな表情が事態の深刻さを物語っていた。

「みのるはお留守番してなさい!」

母さんは強い口調でみのるに言った。

「じゃあ、私と裕作も探しに行くわ。

 大丈夫、絶対に見つかるから!」

「本当に、ごめんなさい。

 ありがとう。」

「1時間後に、またみんなここに戻ってきましょう!」

僕には母さんがすごくたくましく見えた。

僕も母さんに負けないぐらい、たくましくなりたい!

それで、絶対に僕が真白を見つける!

僕はそう強く思った。

まずは、いつも2人で遊ぶ公園を探した。

しかし、どこにもいなかった。

次に、学校へ向かった。

いつも休み時間に遊ぶ、のぼり棒やうんていには姿はみえない。

僕は運動場をくまなく探した。

いつも行く駄菓子屋さんにも行ってみたが、真白はいなかった。

「どこに行ったんだろう・・。」

僕は考えた。

「今度、裕作くんと一緒に隣町の駅まで一緒に冒険ごっこしたいなー。」

この間、言ってた真白の言葉を思い出した。

「成瀬駅!」

僕は自転車を走らせた。

力いっぱいにこいだ。

JR横浜線成瀬駅までは、自転車で飛ばせば15分ぐらいで行けるはずだ。

信号待ちになる度に、僕の心を焦らせた。

「早く、早く!」

そして、僕は駅前に着いた。

「真白、どこだ!」

すると、遠くに赤いワンピースの女の子が階段で座って泣いているように見えた。

どんなに遠くても僕にはすぐにわかった。

「見つけた、真白だ」

僕は、走った。

全力で。

「ましろー!」

俯いて泣いていた女の子は、顔を上げた。

キョロキョロとしながら、自分を呼んだ声を探していた。

そして真白の元に辿り着いた。

真白は僕の顔をみるなり、

声を上げて泣き始めた。

「怖かったよー。寂しかったよー。」

するとそんな僕らをみた中年のおばさんが声をかけてきた。

「あなた達、大丈夫?

 迷子なの?お母さんは?お父さんは?」

心配そうな表情でおばさんは言った。

「もう大丈夫です。

 有難うございました。」

僕は、丁寧に答えた。

するとおばさんは、

「あら、そう?なら大丈夫ね。」

と言って去って行った。

僕は真白を見た。

彼女はまだ泣いていた。

「真白、一緒に帰ろうか。」

僕は優しい口調で真白に言った。

「うん。」

その言葉で真白もだいぶ落ち着きを取り戻し始めた。

僕は自転車をひきながら、2人仲良く歩いて帰った。

「私ね、絶対に裕作くんが来てくれるって思ってた。

 だって、裕作くんはいつも真白を助けてくれるヒーローだから。」

さっきまで大泣きで、真っ赤にはらした目で真白は言った。

「ずっとおれが真白を守ってやるからな!

 だから、安心しろよ!」

僕はふと思い出した。

さっき寄った駄菓子屋で真白の大好きなキャンディを買ってあった。

真白が見つかったら、あげようと思っていた。

僕はポケットにはいっていたキャンディを2個取り出した。

その内の1個を右手に隠した。

「真白、手を出してみろよ。」

「手?」

真白は裕作に手を差し出した。

裕作は真白の掌に、キャンディを落とした。

「あっ!?キャンディだー!」

真白は言った。

「元気がでるぞ!」

裕作は笑顔で言った。

「うん!」

真白は、キャンディを口に頬張りながら言った。

その表情は、いつもの笑顔が戻っていた。


そう、真白にとってもこれが初恋だったのだ。

忘れる事のできない、初恋。


「ずっと、真白を守る。

 私、あの時 本当に嬉しかった。

 あなたは私にとって、かけがえのない人。

 だから私は、ずっと会いたかった。

 裕作くんに。

 でも、お母さんがあんな事件を起こして

 しかも裕作くんの連絡先もわからなくて。

 けどね、1年前の大学3年生の秋にあの図書館にはいる裕作くんをみかけたの。

 でもその時は人違いかと・・・。」

 
裕作くん!?

図書館へはいっていく、青年を真白は直感で

裕作だと感じとった。

真白は、跡を追いかけようとした。

しかしその足は止まってしまった。

その理由は、すぐに自分でもわかった。

ふと見上げると、窓際の席に裕作らしき人物が席に座った。

それがもし、裕作だったとしても

何て声をかければ良いかわからなかった。

なぜなら裕作の家族を奪ったのは自分の母親だったからだ。

そんな娘に声をかけられて、喜ぶ人間などこの世にいない。

裕作は被害者なのだ。

加害者の娘である真白に、声をかける勇気がなかった。

しかし、真白はずっと想い続けていた裕作の事を忘れられないでいた。

「ずっと、真白を守ってやる!」

あの時の言葉が、今でも脳裏に焼き付いている。

その言葉が、これまで孤独な人生だった真白に勇気を与え続けていた。


そして真白はある日、ひとつの答えを出した。

裕作に会って、母親が起こしたあの事件の事を

きちんと謝罪しようと。

受け入れてもらえなくても仕方がない。

今のままでは真白自身も、前に進めなかった。

そして、真白は考えた。

いきなり会って、ごめんなさいではきちんと話ができない事を。

そう、それには時間とタイミングが必要だった。

真白という名前は伏せておこう。

それにまず、彼が本当に高橋裕作かきちんと確認しておく必要があった。

恐らく、大学生。

図書館の近くのある大学。

それはひとつしかない。

名古屋学園大学。

裕作の年齢だと、4年生のはずだ。

真白はその大学に通う友達に、高橋裕作という人物が

在籍しているか調べてもらった。

友達に頼んでから1週間が過ぎた頃に返事がきた。

経済学部の4年生に高橋裕作という人物が在籍している事がわかった。

間違いなかった。あれは裕作だった。

真白は嬉しかった。

自分の直感が正しかった事。

それが今でも、裕作とどこかで繋がっているかのように思えたからだ。



2008年11月18日

図書館の1階のソファに座って、彼が来るのを待った。

すると、ゲートをくぐりエレベーターに向かう彼が現れた。

真白は、急いでエレベーターへ走っていった。

もう間に合わない。

そう思った瞬間だった。

閉まりかけた扉が開いた。

真白は、エレベーターを開けてくれた彼に会釈をしながら

笑顔でお礼を言った。

真白は、ドキドキしていた。

何年ぶりかに裕作と再会できたのだ。

その彼は、すぐそばにいる。

ずっと会いたかった。裕作。

エレベーターの扉が開くと彼は

「どうぞ。」

と言って、先を真白に譲った。

彼の優しさは今でも変わっていなかった。

真白は、以前に裕作が座っていた窓際の席を選んだ。

そして、席に座った。

しかし、本がなければ不自然だと思い

真白は、適当な本を探しに行った。

本を2冊選んだ真白は、席に戻った。

自分の席の後ろに彼が座っている。

いざとなると、声をかける勇気がでてこない。

逆に声をかけてくれればなと真白は思ったが

そんな都合の良い話などないと自分でもわかっていた。

いろいろと考えながら、本のページをめくっているうちに

真白は眠くなっていた。

昔から、真白は活字が苦手だった。

 
はっと気がつくと真白は眠っていた。

後ろをみると裕作の姿はなかった。

やってしまったと思った。

仕方なく帰り支度をしていると

気が抜けたせいか、真白は伸びをしながら大きなあくびをした。

ふと外に目をやると。外からこっちを見上げている裕作と目が合った。

「あっ!?」

真白は急いで席を立ち、エレベーターにむかった。

ボタンを2、3回押した。

「早く、早く。」

待ちきれない真白は、階段で1階へと駆け下りた。

ゲートをくぐり、外に出た。

遠くに裕作が自転車をこぐ後ろ姿がみえたが

その姿は、右に曲がったと同時に消えた。

間に合わなかった。

また明日来よう。

もしかしたらまた会えるかもしれない。

 
そして次の日。

真白は図書館にいた。

来るかわからない彼の事を待つために。

昨日は不覚にも眠ってしまった。

今日は、なるべく活字が少なく写真の多い本を選んだ。

そして席に戻ろうと歩いていた彼女の目が

裕作の姿をとらえた。

真白は勇気をふりしぼり声をかけようと決めた。

彼と一瞬、目が合ったように思えたがすぐにその視線ははずされた。

そして彼は、1冊の本をとりだしていた。

真白は、彼の後ろで立ち止まった。

頑張れ、真白!

自分で自分自身を力づけた。

「あ!?昨日の人だぁ、覚えてる?」

真面目に声をかける事が、照れくさかった彼女から

でた言葉は、自分でも意外な言葉だった。

その弾みで、あくびをみられた事を彼に怒っていた。

彼に大あくびをみられて恥ずかしかったのは事実だが

実際は怒るつもりなど全くなかった。

むしろ、どう話しを運んでいけば裕作と仲良くなれるのか

自分でもわからないでいた。

そしてふと裕作が手に目をやると

臨床免疫学というタイトルの本を持っていた。

ジョーダンのつもりで真白は言った。

「あなた医大生なの?」

すると彼から意外な言葉が返ってきた。

「あっ、別にたいした事ないけどね。」

裕作は、経済学部のはずだ。

しかも、真白の知っている裕作は嘘をつくような男ではなかった。

もしかしたら、人違いかもしれない。

一瞬、真白は迷った。

しかし、彼は急いで彼女の前から去っていった。

本当に裕作くんなの?

彼女は不安になった。

しかしそんな不安は、その後すぐに打ち消された。

ある日、彼女は図書館の駐輪場で自転車を盗まれた。

すると彼が現れ、自転車を貸してくれた。

そう、その自転車の鍵にプレートがついていた。

そのプレートには

”YUSAKU TAKAHASHI"

と刻まれていた。

彼が、裕作だと確信した。


そして明くる日、彼女は図書館のいつもの席に座っていた。

昨日借りた自転車を返すためだ。

それに彼にきちんと謝罪しなければならない。

あの母親が起こした事件の事を。

しかし、それを話せばもうこうして会う事もなくなってしまうのだろうか。

そう考えると、真白の目には涙が溢れてきた。

すると彼の声が聞こえてきた。

「やあ。」

不意を突かれた彼女は、涙を隠そうとした。

しかし、とてもそんな事をできるような状態ではなかった。

今日は彼と普通に会話する事はできない。

そう、彼女は複雑な心境だった。

裕作とこうして会える喜びと

もう会えなくなってしまうという悲しみの狭間に彼女はいた。




僕は全てが理解できた。

真白が何で僕の前に現れたのか。

なぜ偽名までつかって、僕に近づいたのか。

「わかったよ。もうわかった。」

僕は真白に言った。

真白は、俯いていた。

その手は少し震えていた。

しかし、もう彼女を昔のように守ってやる事はできない。

「もう、これで終わりにしよう。」

僕はとうとう切り出した。

「ごめん、もう真白を守る事はおれにはできない。

 はっきり言って真白と母親の謝罪を受け入れるつもりおれにはない。

 家族を奪われて、今までどんなに辛い思いをしてきたか。

 だから、もう真白とは会えない。

 もう会いたくないんだ。」

真白は僕をみた。

その目に、たくさんの涙が溢れてきた。

しかし彼女は何も言わなかった。

彼女には、この時がいつかやってくる事を 覚悟していたのだろう。

「今まで、有難う。」

僕はそう言うと、立ち上がり帰ろうとした。

ふと、彼女の机に目をやると、

キラキラした石でデコレーションされた写真立てがあった。

その中には、僕の家族と真白の家族が楽しそうに

バーベキューを楽しむ写真が飾られていた。

その写真の僕と真白は、無邪気で楽しそうな笑顔をしていた。

今の二人とは正反対の。

僕はそのまま玄関の扉をあけ、彼女の部屋から出ていった。

扉が閉まった瞬間、真白が泣いている声が聞こえてきた。

これで、いいんだ。

僕は真白の声を背に自分にそう言い聞かせた。

全てが終わったのだから。



家に戻った僕は、上着を脱いだ。

その瞬間、真白の匂いがした。

僕の服には、彼女の香水の香りが染みついていた。


2008年12月15日月曜日

ノンタイトル~本編20~

2008年12月10日 水曜日 第4幕

その後、病院に運ばれたが

裕作の家族と菜摘の4人はすでに手遅れだった。

最終的に死因は、一酸化炭素中毒だった事が判明した。

しかし、雪乃と真白は奇跡的に意識を取り戻した。

そしてすぐに、雪乃は別の病院へと移された。

娘を殺そうとした、母親を同じ病院においておくのは

まずいと判断されたのであろう。

雪乃は、3ヶ月程で退院したが

退院後は、そのまま警察署へと連行された。

真白は全治1年の重傷だった。

退院後は、静岡にある母親の妹の家に引き取られる事になった。

雪乃は、一家3人と娘を殺した殺人罪と

真白を殺そうとした、殺人未遂罪で無期懲役の判決が下った。

そして、現在も横浜の郊外にある刑務所で服役中である。


僕は怒りと悲しみの入り混じった感情に震えていた。

「許せない。絶対に。」

その言葉は、大きな憎しみが込められていた。

それに僕は知らなかった。

姉の菜摘も殺され、真白も重傷を負った事を。

すると真白は着ていたニットの裾ををめくり上げた。

その脇腹には、大きく縫われた痛々しい傷跡があった。

僕は、目を反らした。

僕の家族はみんなその傷をもったまま、死んでいった。

その怒りは更に増していった。

「2年前、初めて面会にいったの。」

真白が俯きながら言った。

「久しぶりに会ったお母さんは、まるで別人だった。

 すごく痩せちゃってて、あの時の優しいお母さんの面影は

 全く感じられなかった。

 でも、ずっと謝ってた。

 涙を流しながらごめんなさい、ごめんなさいって何度も繰り返してた。

 裕作くんと私に、取り返しのつかない事をしたって。」


「そんな謝罪、おれは絶対に受け入れないし認めない!

 なんで、真白の母親が生きてるのに

 おれの家族は死んだんだ!

 なんで、殺されなきゃならないんだ!」

僕は声を張り上げた。

真白は俯いたきながら言った。

「裕作くん、本当にごめんなさい。本当に。」

「なんで真白が謝るんだよ!

 真白だって被害者だろ!
 
 おまえの母親は、真白まで殺そうとしたんだぞ!

 そんなおまえが、なんで謝るんだ!」

「だって、たった一人の母親なんだもん。」

真白は言った。

その言葉は、僕の胸を突いた。

そう。

彼女にとっては、あんな事件を起こした犯罪者でも

たった一人の母親だ。

僕が、家族を想うように、彼女も家族を想っていた。

これ以上母親の事で真白を責める訳にはいかなかった。

しかし、最後に聞いておきたい事がある。

「じゃあ、何で僕の前に現れた。しかも偽名まで使って。」

俯いていた真白が、僕の目をみた。

その目は、悲しみで溢れていた。


2008年12月14日日曜日

ノンタイトル~本編19~

2008年12月10日 水曜日 第3幕

1996年12月17日の夜

真白の11歳の誕生日会。

テーブルを囲んだ6人の会話も弾んだ。

「真白ちゃんは、大きくなったら何になりたい?」

裕作の父、政彦は訪ねた。

「かわいい、お嫁さんになりたい!」

真白はすぐに答えた。

「裕作くんのでしょー?」

真白の姉、菜摘はさじを入れた。

「でも、来年の誕生日に同じ質問をしたら

 相手が変わってたりして!」

裕作の母、幸子がいたずらな顔をして言うと

また部屋中に笑い声が響いた。

笑えないのは真白だけだった。

「真白はずっと、変わんないもん!」

その表情は真剣だった。

すると真白の母、雪乃が言った。

「真白は本当に裕作くんの事が好きだもんねー。」

真白は少しむくれていた。

それを見た、雪乃は続けて行った。

「じゃあ、そろそろケーキでも食べましょうか?」

みのるは一番に声を出した。

「はーーーい!」

真白の表情にも笑顔が戻っていた。

「やったー!」

「じゃあ、少し部屋の灯りを消すわねー」

部屋が一瞬、暗くなった。

雪乃は台所からケーキを運んで来た。

灯された11本のローソクの火が揺れていた。

苺のショートケーキ。

酒を飲まない政彦も、甘いものが大好きだった。

「真白ちゃんのあ母さんの作ったケーキは

 どこのケーキ屋さんよりもうまいからなー」

政彦は、ケーキをみながら言った。

「私も、雪乃さんからケーキの作り方を教えてもらったけど

 やっぱり、先生にはかなわないものねー」

幸子もケーキをみながら、言った。

「そう言ってもらえると、作った甲斐があるわ!

 今日もいっぱい食べて行って下さいね!」

「ハッピバースデイ トゥーユー♫」

みのるが唄い出すとみんなも一緒に唄い始めた。

「ハッピバースデイ ディア 真白ちゃーん♫

 ハッピバースデイ トゥーユー♫」

「さあ、真白!ローソクの火を消して!」

雪乃が小さな声で真白に言った。

「ふーーー!」

1本だけローソクの火が残った。

「ふーー、ふーーー!」

全てのローソクの火が消えた。

次の瞬間、部屋の灯りがついた。

「真白ちゃん、誕生日おめでとう!」

みんなで拍手をしながら、お祝いの言葉を真白にかけた。

真白は、照れくさそうな表情で有難うといった。

早速、雪乃はケーキを切り始め小皿に分けた。

「いただきまーす!」

みのるは一番のりで食べ始めた。

至福の時間だった。

みんなは、ケーキを口に頬張りながら

おいしいという言葉を何度も言いながら食べた。

雪乃は、みんなの表情を満足そうにみていた。

それからも、楽しい時間は続いた。

裕作のお母さんから、真白へプレゼントが渡された。

真白が箱を開けて中をみると

キラキラとした石でデコレーションされた写真立てだった。

その写真立てには、この年の夏にみんなでバーベキューに

行った写真がはいっていた。

「ありがとー!嬉しい!」

その写真に写る、2つの家族の表情は笑顔で溢れていた。


「もう寝ちゃったのー。仕方のない子ねー。」

気がつくと、みのるはソファで眠っていた。

しかし、幸子自身もひどい眠気に襲われ始めた。

「母さん、何だか。

 少し意識が。」

政彦にも異変が起き始めた。

意識がもうろうとした中で、

真白と菜摘にも異変が起きている事を

確認した。

「何で、どうしたのかしら・・」

真白はこの眠気と戦っていた。

「お母さーん。何か急に・・」

真白は、雪乃の方へ行こうとしたが

体がうまく動いてくれない。

しかし、真白はみた。

雪乃が泣いているのを。

雪乃だけがケーキを食べていなかった。

なぜなら、そのケーキには睡眠導入剤であるゾルピデムが混入されていたからだ。

看護士である雪乃が、それを手に入れる事は難しい事ではなかった。

意識がもうろうとした中で

雪乃の声が耳に入ってきた。

「ごめんなさい。

 本当にごめんなさい。

 あなた達、家族が本当に羨ましかった。

 憎い程に。

 あなた達がいけないのよ。

 私たち家族に対して、必要以上に優しくしたのだから。

 それがもう耐えられなくなった。

 同情されているようで。

 それに私には、もうあの子たちを育てて行く自信もないの。

 いっそ何もかもが失くなれば。

 そう私はもう楽になりたい。

 だから、今日ここで全てを終わらせるの。」

その右手には、ナイフが光っていた。

そのナイフは、意識のない政彦、幸子、みのるの順で

それぞれの体の中へと、はいっていった。

それはまるで地獄のようだった。

そして、そのナイフは菜摘の体の中にもはいった。

「ごめんね、こんなお母さんで。

 本当にごめんね。」

その手は、血で真っ赤に染められていた。

そして、その目は真白にも向けられた。

やめて・・。お母さん・・。

声にならない声で、真白は言った。

「真白、せっかくの誕生日だったのに

 本当にごめんね。

 でもね、お母さんは本当に真白も菜摘も愛してるのよ。

 それだけは、わかって。」

ついに真白の体にもナイフがはいった。

その痛みは、小さい体の女の子には

過酷すぎる痛みだった。

真白の右の脇腹には、まだナイフがはいっている。

真白の左の耳元で雪乃は囁いた。

「お母さんもすぐに行くから。」

体からナイフが抜けた。

真白は、その激痛から完全に意識を失った。

そして、雪乃は台所へ向かい、

ガスの栓を開いた。

空気がぬけるような嫌な音がし始めた。

「これで、終わったわ。全てが。」





 

 

 









 


2008年12月13日土曜日

ノンタイトル~本編18~

2008年12月10日 水曜日 第2幕

「話してくれよ。その覚悟はある。」

「あの日、裕作くんも覚えていると思うけど、」

真白が話し始めた。

僕は、ごくんと唾を飲み込んだ。

そう、あの日。

僕も一緒に行くはずだった。

真白の誕生日会に。


1996年12月17日

「あー、僕も真白の誕生日会に行きたかったなー」

トーストを食べながら、台所に立つ母に言った。

「しょがないでしょ、明日おばあちゃんが

 裕作を迎えに行けなくなったんだから。」

次の日に、おばあちゃんの家に一人で行くはずだった。

しかし、それが1日早まってしまった。

おばあちゃんは3年程前から、近所の友達と

オカリナ教室に通っていた。

おじいちゃんが他界して1年が過ぎた頃だった。

僕は、おばあちゃんのオカリナが大好きだ。

12月18日にオカリナの演奏会が街の小さな文化ホールで開催される話は、

3ヶ月程前に聞いていた。

次の演奏会には絶対に行きたいと僕がおばあちゃんに言ってあったからだった。

おばあちゃんも僕が来てくれるのを心待ちにしながら練習していたと

母さんが言っていた。

「でも僕が行かないって知ったら、真白がっかりするだろうなー」

真白のがっかりした顔が、目に浮かんだ。

「そうね、今年は残念だったわね。

 そのかわりに、24日はうちでクリスマス会をしようかと思ってるのよ!

 でもケーキだけは真白ちゃんのお母さんにお願いしなきゃね!」

そう、うちの家族と真白の家族は仲が良かった。

真白の家は、お母さんとお姉さんと真白の三人暮らしだ。

看護士である真白のお母さんは、一人で一家を支えていた。

真白のお父さんは、真白が物心つく前に出て行ったと

一度だけ、母さんが話してくれた事がある。

小学生に、大人の事情はまだ理解できないと思ったからだろう。

そんな母子家庭を、傍から見ていてはじめに声をかけたのが

僕の母親だった。

まだ、僕も幼かった頃に。

公園でいつも仲良く遊ぶ親子3人に

僕の母親は、声をかけた。

それが全ての始まりだった。


昔から僕の家には、親戚付き合いがなかった。

というよりもできなかったと言った方が正しいだろう。

母は1人娘だったが、父には兄がいる。

それがひろゆきおじさんだった。

しかし、ひろゆきおじさんは僕の父に会うのを

必要以上に避けていた。

そのせいからか、ひろゆきおじさんは

家族を失った僕を引き取るのを拒否したのだろう。


僕の家族と、真白の家族。

親戚以上の付き合いになるのには

そう時間はかからなかった。

だからこの日、真白の誕生日会に僕の家族が招待されたのは

日常的な、ごく普通の出来事だった。


おばあちゃんの家に行く準備の整った僕に

玄関から父さんが声をかけてきた。

「準備できたかー裕作。

 そろそろ行くぞー。」

「うん、今行くー!」

僕は、慌ただしく階段を駆け下りた。

「もー階段はゆっくり降りなさいって

 何度言ったらわかるの?!

 けがしてもお母さん知らないからね。」

そう、僕は元気が良すぎて

家でもよく怒られていた。

「でも、お兄ちゃん。

 本当に一人で行けるのー?」

「だって、おれはみのるみたいに

 泣き虫じゃないもんなー。」

そう、真白とみのるはよく泣いていた。

「でも、今日は真白ちゃんのお母さんの手作りケーキが

 食べれるもんねー。僕、泣き虫で良かったー。」

「もう!みのるも余計な事を言わない!」

母さんが、みのるの頭をたたくふりをしながら言った。

「じゃあ、行ってくるね!」

「行ってらっしゃい、気をつけるんだよ!

 それと着いたらちゃんと電話しなさいよ!」

「わかってるって!」

これが、母さんとみのるとの最後のお別れになるとは

その時の僕には、想像つくはずもなかった。

僕は車に乗る前に父さんに言った。

「真白に、今日は行けないって伝えてくる!」

父さんは、車の運転席から笑顔で頷いていた。

僕の家から、真白の家まで走れば1分もかからない。

僕は、真白の家の玄関の前でインターフォンを鳴らしながら大きな声で呼んだ。

「まーしーろー。」

家の中から、バタバタという音が聞こえた。

すると玄関の扉が開いた。

「あら!裕作くん。

 こんにちは!今日は宜しくねー。」

真白のお母さんだった。

「それが、おばあちゃんの家に行くのが

 1日早まっちゃって、今日行けないんだー。

 それを真白に伝えに来たんだ!」

「えっ!?裕作くんは来れないの!?」

一瞬だが、いつもの真白のお母さんの優しい表情が消えた。

今、思えば理由は想像がつく。

そう、僕も一緒に殺す計画だったからだ。


この日、僕が知っている事はここまでだった。

真白の家で、あの晩何が起きたかは 僕は知らなかった。


しかし、僕の家族が真白の母親に殺されたという事実だけは知っていた。



















2008年12月11日木曜日

ノンタイトル~本編17~

2008年12月10日 水曜日 第1幕

忙(せわ)しそうに行き交う人と車たち。

この街も年末の慌ただしい雰囲気に包まれている。

大通りから、コンビニを目印に左へ曲がった。

さっきまでの活気は嘘のようになくなった。

住宅街特有のひっそりとした静けさの中で

楽しそうな子供たちの声が聞こえて来た。

「おーい。もういいぞー!」

「じゃあ、行くよー!」

僕にも、こんな頃があった。

いつも一緒に遊んでいたのは

近所に住んでいた幼なじみの女の子。

そう、それが広瀬真白だった。

歳は僕の方が1つ下だったが

いばっていたのはいつも僕の方だった。

そんな僕を、真白はいつも頼りにしていた。

彼女はしょっちゅう泣いていたが

僕は、彼女の前で涙を見せた事がなかった。

僕が涙をみせなかったのは

真白を不安にさせたくなかったからだ。

しかし、家に帰り母さんの顔をみると

我慢していた涙が、自然と溢れ出していた。

母さん。

みんな僕を置いて、どこへ行ってしまったんだ。

どうせなら、僕も一緒に連れて行って欲しかった。

家族4人、この世でもあの世でも関係ない。

ずっと一緒に居たかった。離れたくなかった。

みんなの分まで生きようと強く決めた僕の人生。

しかしまだ、生きていく価値を見いだせない。

父さん、母さん。

僕に教えて欲しい。

なんで僕はたった独りだけ残って生きて行かなければならないのか。


ふと気づくと、前に神社が見えてきた。

生い茂った木々は、まるで命そのものだった。

必死に生きようとしている。

ただそこに植えられたから。

まるで、今の自分のようだった。

僕は、その神社の前で待った。

片瀬雪菜だった彼女と会うために。

待ち合わせ場所は彼女の家の近くの神社を指定された。

僕は、彼女の家をまだ知らなかったからだ。

もう来る事もないだろうなと僕は思った。

そう、全てがもうすぐ終わるからだ。

彼女を待つ僕に、昔のような胸が傷むようなドキドキ感は全くなかった。

それ以上に、僕の心は穏やかだった。

もう、逃げない。

全てを受け入れ、乗り越える覚悟はできている。

そう、その強さこそが僕にとって必要だったものなのだ。

もう、あんな夢をみる事もなくなる。


向こうから、女性が歩いて来る。

ジーンズに襟の大きめなタートルニットの女性が。

初めて彼女のジーンズ姿を見た。

というよりも、彼女が広瀬真白として会う事が初めてだった。

「じゃあ、私について来て。」

彼女は僕に会うなり、そう言った。

僕は、無言のまま彼女の後ろをついて行った。

もちろん、二人の間に会話なんてなかった。

歩いて5分ぐらいが経った。

彼女はマンションの前で立ち止まって振り返った。

「ここが私の家。」

すると彼女は、オートロックの番号を入力して

玄関の自動扉を開けた。

そして、エレベーターに乗り込んだ。

彼女は7階のボタンを押した。

扉が閉まると、二人を乗せた箱には僕らの事はおかまいなしに

上へと昇って行った。

あの香水の匂いとこの静けさ。

そして、狭い箱の中でできた

二人の微妙な距離。

僕は、ずっとエレベーターの通過していく階数をみていた。

恐らく、彼女も同じだろう。

その数字は、まるで何かのカウントダウンかのように思えた。

そして扉は開いた。

僕には、ひどく長い時間に感じられた。

彼女は705号室の前に着くと鍵を取り出し

玄関の扉を開けた。

「どうぞ。」

彼女は、扉を開けたままそう言った。

「ありがとう」

それは今日僕が口にした彼女に対する最初の言葉だった。

靴を脱ぎ、部屋にはいった。

昔、遊びに行った真白の部屋を思い出させるような

女の子を感じさせる室内だった。

「お茶入れるね。」

と言うと彼女は台所へ行った。

どこに座ればいいのかよくわからなかった。

とりあえず、部屋の角に置いてある本箱の前に座った。

女性向けの雑誌がおいてあったので

それをぱらぱらとめくりながら眺めていた。

その内に彼女が、お茶をもって戻ってきた。

「どうぞ。」

と彼女はテーブルの上にお茶を置いた。

そして、僕は考えていた。

まず何から、話そうか。

聞きたい事は山ほどある。

しかし、彼女の方から先に話始めた。

「私が、何のためにあなたの前に現れたのか。

 それを話す前に、あなたは全てを知っておくべきだと思う。

 あの事件の事を。」

彼女の視線は僕を通り超し、遠くを見つめていた。

彼女は、思い出している。

僕が知らない、あの事件現場で起きた真相を。




















2008年12月10日水曜日

ノンフィクション

2008年12月10日 水曜日

僕はひどく疲れていた。

ここの所、深い眠りに就けた事がない。

今日も、鉛のように重い体をひきづるように帰宅した。

家に戻り、遅めの夕食をとった。

食欲だけが残っている事が、何よりもの救いだった。

もう夜も遅い。

早めにお風呂に入る事にした。

湯船に浸かり、一息ついた。

僕は昔から長い時間、湯船につかっているのが苦手な方だった。

短めの時間で湯船から上がった僕は

そのせいもあってか、疲れがとれた気がしない。

そして風呂から上がった僕は部屋に戻った。

静まりかえった部屋に灯りをともした。

時刻は、すでに11時を過ぎていた。

まずはパソコンの電源を入れた。

そう、やらなければならない事がある。

それはなるべく毎日続けるようにいつも心がけていた。

しかし、今日の僕には自信がなかった。

まだ、何も決めていないからだ。

これでまた寝不足になって、仕事に影響がでる事。

時間に追われ急いで書いて、後になって後悔する事。

僕は、それが恐ろしく怖かった。

そして僕はひとつの答えを出した。

素直に謝ろうと。

毎日観てくれている、みんなに。

そう、今日の小説はお休みすると。

明日には、書けそうな気がする。

みんなが読んでわくわくするようなクライマックスが。

そんな予感が、僕の自信へとつながっていった。

こんな、意味のない文章を書くぐらいなら

小説を書けと言う者も少なくはないだろう。

そう。

今になって、僕は後悔し始めている。

こんな長い謝罪文を書くぐらいなら

小説の下書きでも書いていた方がよっぽどましだったと。

しかしもう遅い。

僕はもう踏み出してしまった。

今日は、早い目に寝て明日の執筆に備える事。

今の僕にできる事は、それぐらいしかなかった。

みんなはわかってくれるはずだと願いつつ

僕は眠りに就く。

それでは、おやすみなさい。

2008年12月9日火曜日

ノンタイトル~本編16~

2008年12月9日 火曜日

降り続ける雨。

僕の心も穏やかではなかった。

昨日の晩の電話のせいだろう。

僕はもう疲れていた。

「早く終わらせよう。」



電話の呼び出し音が鳴り続けた。

僕の携帯電話を非通知設定にしたせいだろうか。

しかし、非通知に設定しなければならない理由があった。

「もしもし?」

彼女が電話をとった。

僕は、相手に気づかれないようにまず呼吸を整えた。

「もしもし、真白?

 おれだけどわかるかなー?」

僕は、自分を殺して精一杯他人の声で言葉をならべた。

「え!?誰?わかんない。」

彼女は否定しなかった。

「船場小学校の5年3組で一緒のクラスだった

 坂本 和也だよ!」

彼女の学年は1つ上だった。

その頃は、まだ4年生だった僕だが

たまに彼女のクラスに遊びに行く度に

生意気だった少年の事をまだ覚えていた。

「さかもと?

 あー、あの坂本くん!?

 サッカー部だった!」

そうだ。思い出した。

その少年はサッカー部に所属していた。

そしてとうとう核心に迫った。

「真白だよね?」

僕は最後に尋ねた。

彼女は誰なのか。

僕は息を飲んで彼女の言葉を待った。

「そうだけど、どうしたの急に電話なんて?」

その言葉が全てを物語った。

そう彼女は片瀬 雪菜ではない。

彼女の名前は広瀬 真白。

僕の初恋の相手。

そして、あの事件に関わっていた存在。

なぜ、彼女がまた僕の前に?

目的はなんなんだ?

僕はこの一瞬で、奈落の底に突き落とされた。

そして明かした。

「おれだよ。裕作だよ。」

「えっ。」

その言葉は小さく、そして短かった。

「裕作くんなの、本当に?」

彼女もこの状況にまだ頭の中がついて来れてないらしい。

今の僕のように。

「あぁ。」

僕はそれ以上の言葉が出なかった。

「何でこんな真似を・・・」

真白のその言葉で、僕の中で何かが弾けた。

「それは、こっちのセリフだ!

 何で今になっておれの前に現れた!

 それも名前を偽って!

 おまえの目的は何なんだ!」

僕は、気持ちの全てを彼女にぶつけた。

この間までの僕には想像もできなかった。

僕が彼女にぶつける気持ちは、

彼女に対する好きだという想いだとばかり思っていた。

しかし、今僕は怒りという全く正反対な感情をぶつけている。

少しの沈黙の後に彼女が口を開いた。

「私は、ただあなたに会ってきちんと話をしたかっただけ」

僕にはその言葉の意味が全く理解できなかった。

なぜなら、会って穏やかに話のできる相手ではないからだ。



1996年12月17日。

父さんと母さんとみのるは、殺されたのだ。

そう、僕の家族を殺したのは彼女の母親だ。

僕にとって、かけがえのない大切な家族の命を

たったひと晩で奪い去った。


彼女は深く息を吐き、続けて彼女は話始めた。

「わかった。きちんと話をするから

 あさって、私の家に来て欲しいの。」

彼女は一気に言葉を吐き出すように言った。

「もうおまえと会うつもりはない!」

もうこれ以上、僕の心を乱して欲しくはなかった。

もう傷つきたくなかったんだ、僕は。

するとすぐに彼女がこう答えた。

「会って、話すのが怖いのね。

 自分とそれにあの事件と、真っすぐに向き合うのが怖いのね。」

彼女は僕の心を見透かしているかのようだった。

正にそうだ。

自分自身の殻から抜け出したい、変わりたい。

そう思っていた。

だから、こうして真実を知るために雪菜だった彼女に電話をした。

嘘をついてまで。

しかし、いざとなったら僕は逃げようとしている。

彼女の言う通りだった。

僕は、まぶたを閉じた。

もう逃げるのはやめよう。

そして彼女の言葉に答えた。

「わかった。行くよ。あさって。」

もう終わらせよう。

全てを。

そして、新しい人生を迎えるんだ。



2008年12月8日月曜日

ノンタイトル~本編15~

2008年12月8日 月曜日

「おい!高橋!何ぼーっと突っ立てるんだ!

 仕事しろ!」

怒声が、フロアに響いた。

今日は最悪の1日だった。

バイトが終わると、僕はまっすぐ家に帰った。

こんな風に、ぼーっとして怒られたのはこれだけではない

今日の講義中にも、教授に怒鳴られた。

そう、日曜日の雪菜の言葉。

それに、蘇る記憶の断片が僕をそうさせる。

僕の思考回路は、完全にパンクしてしまったようだ。

自分の殻から、抜け出したい。

新しい自分に生まれ変わりたい。

それは、頭の中のほんの一部の願望に過ぎないのだろうか。

思い出そう、記憶の糸を繋げようと思えば思う程、

自分の頭の中で、それを制御してしまう。

怖いのだ。

本当の自分。

新しい自分。

自分自身に僕は怯えていた。


僕は、あの時に全てを心の奥底に閉じ込めたのだ。

そう、父と母。

それに弟の遺体を目にしたあの時から。

僕は、3人の遺体を前にこの世の終わりが来たような

泣きようだったと、大きくなってからおばあちゃんに教えてもらった。

しかし、僕が大学1年の夏。

おばあちゃんは他界してしまった。

これで僕は、この広い世界でたったひとりぼっちになったのだ。

身よりも何もない。

自分ひとりの力でこれから生きていかなければならない。

しかし、それだけに生きる価値のある世の中だろうか。

人生だろうか。

いっそ、死んでしまった方が楽に思える時だってあった。

だけど、こうして今まで生きて来た。

それは、一生懸命に僕を育ててくれたおばあちゃんの存在があったからだ。



高校の卒業式の前日の夜だった。

おばあちゃんが、初めてあの日の事を口にした。

「裕作はねえ、あの時は本当によう泣いたねえ。

 それで泣き疲れて眠ったらまる1日近く眠ってねえ。

 でも次に目を覚ました時には、あんたは別人に変わっててびっくりしたんよ。

 もうまるで感情のない人形のようやったんよ。

 おばあちゃん、あんたまでそんな風になってしもうて本当に悲しかった。

 あんたが、おばあちゃんと暮らすようになってからも

 ずっと感情も出さへんし、あまりしゃべらん子になってしまもうて

 どんだけ、心配した事か。

 でも、あれは中学2年生ぐらいやったかなぁ。

 やっと、感情を私にみせるようになってきて、

 それに友達もでき始めて。

 おばあちゃん、どんだけあの時 嬉しかったか事か。

 でもこうして明日、卒業式を迎えて

 春からは大学生。

 裕作は名古屋でこれからひとりで暮らす事になるけど

 いつだって帰ってきてええんやよ。

 あんたの帰る場所は、ちゃんとあるんやから!

 それにな、あんたは本当はもっとたくましくて強い心を持ってるんよ。

 あの事故の前までは、

 それはもう明るくて元気で活発な子やった。

 近所の女の子をいつも守ってあげてたし、本当に おばあちゃんの自慢の孫やったんよ。」

そう、昔はこんな引っ込み思案でもなく、前にでる事も苦手じゃなかった。

僕は、もっとたくましかった。

だって、近所に住む・・・。

ましろ。

そうだ!僕は近所に住むましろをいつも守ってあげていた。

広瀬 真白。


僕がまだ小学校の低学年の頃だった。

「ねーましろちゃんのお母さんは何でいつもこんなにいい匂いがするのー?」

「これはねぇ、香水をつけてるからいい匂いがするのよ。」

「裕作くんは、香水好きなんだー。」

「うん!ましろちゃんのお母さんの手作りケーキとこの匂いが大好き!」

「じゃあ、ましろも大きくなってケーキも上手に作れて

 この香水使ってたら 裕作くん、ましろと結婚してくれる?」

「うん!おれ、一生ましろを守る!」

「もーあんたたちは本当に仲が良いのね!

 羨ましいわぁ」

そう、それは初めての恋だった。

僕の初恋の相手。

そして同時に僕は思い出していた。

おばあちゃんは、父さんたちが死んだのは事故だったと言っていた。

死因は、一酸化炭素中毒。

だから僕は、ガスの元栓だけにはすごく過剰に気を付けるようになっていた。


しかし、父さん達は殺されたのだ。

あの日、病院に来ていた警察官の言葉が今鮮明に蘇る。

殺人事件という言葉が。


僕の記憶の糸は繋がった。

そして、携帯電話を取り出し

設定を非通知設定に変え、発信ボタンを押した。

相手はもちろん、片瀬 雪菜だ。
















2008年12月7日日曜日

雪。

こんばんは!

お久し振りの のほほん工房のお時間です!

小説を一気に3話、アップしてしまいましたが

遅くなってごめんなさい!

実は3話書くのに4時間半もかかってしまい

今やっと書き終わった所です。

でもとりあえず、みなさんにお届けできたので

一安心しております。


さて、昨日行ったゴルフのご報告!

岐阜県の中津川のゴルフ場。

着いた頃には!?



みんなうっすらと雪化粧。

僕にとっては、今年の冬の初雪です!

とそんな浮かれてはいられません!



僕らの目的は雪遊びではなくゴルフなんです!

前日の練習場での400球を打った成果を発揮したかったのに。。

ゴルフ場はクローズ状態。

要するに、プレーは出来ませんとの事でした。

残念。

しかし、もしかしたら雪が溶けてプレーできるかも!?

というわずかな希望に賭け、1時間程 待機おりました。

しかし、雪が溶けるどころか粉雪が舞い始めたのです!

そして、僕らは決めました!

この雪の中、プレーをする事を!

ゴルフ場の方に、カラーボールをお借りし

いざ出陣!





コースにはまだうっすらと雪が積もっています。









しかし、もう後戻りはできません!

僕も準備を始めました!

でも、かなり寒い!

本当に、これぞ極寒といわんばかりの寒さ!





カートは使えないので、ゴルフバッグは自分で担いでコースをまわりました。

まるで、部活のようです。

結局3コース程まわって、僕らの修行!?は終わりました。

なかなか、体験する事はできません。

雪の中のゴルフなんて。

貴重な体験ができました!


しかし、これではなんかモヤモヤして帰る事ができない!

という事で、この後に山を降りて

ショートコースをまわりました。

雪のないちゃんとしたコースで!

で、TOFUさん。

生まれて初のPARをだしました!

後は、あまり言えない結果でしたが・・・。


という訳で、小説の方も

終盤を迎えつつあります。

小説の終わりを惜しむ人、喜ぶ人。

とりあえず、頑張って執筆していきますので

応援宜しくお願いします!

それではみなさん、明日からまた頑張りましょう!

おやすみなさい!

ノンタイトル~本編14~

2008年12月7日 日曜日

過去の記憶が、断片的に蘇っている。

しかしそれはばらばらの点に過ぎなかった。

僕はその点を、1本の線で結ぶ事ができないでいた。

雪菜は、図書館で初めて出会う前から

僕の事を知っていたのだろうか。

そんな訳はない。

僕みたいな平凡な男の事を、知っている人間なんて

今まで、僕の辿ってきた道で交わった人だけだ。

しかし、僕には雪菜の顔に見覚えはないはずだ。


昨日の夕食の時もその理由は教えてはくれなかった。

「時が来たら、きちんと話すから

 もうこの話はやめよ。」

そんな事を言われたら

僕には、それ以上問いただす勇気なんてない。


今日の天気は、快晴。

でも、外出する気には全くなれなかった。

先週の金曜日に運んで来た寒気は

昨日、日本海側に雪を降らせた。

本格的に、僕らの街を

冬という季節が包み込み始めた。

今日は、まだ雪菜からの連絡はない。

時が来たら。

時というのは、いつなのか。

なぜ今は、話せないのか。

やっと医大生だという誤解が解けて

気持ちが晴れると思いきや

今度はそれ以上に僕の気持ちを曇らせた。

「一体、彼女は何者なんだろう」

ベッドの上で横になりながら僕はひとりつぶやいていた。

しかし、彼女が何者であろうと雪菜は雪菜だ。

僕の想いも変わるはずはない。

それだけは断言できた。



僕の心の中で、唯一 曇ってないのは

彼女に対する想いだけになっていた。








ノンタイトル~本編13~

2008年12月6日 土曜日

僕は、地下鉄の改札口を抜けた。

待ち合わせ場所は、栄のクリスタル広場の三越側と言われた。

昨日、雪菜から電話があった。

「ワンピースを買いに行きたいんだけど

 一緒についてきて欲しいなー。

 お願い!お礼はちゃんとするから!」

そんな風に言われたら、一緒に行くしかないだろう。

むしろ、僕はすごく嬉しかった。

また、雪菜と会える。

しかも、彼女の方から僕を必要としてくれる事だけで

僕は心から幸せだった。


彼女はすでに待ち合わせ場所に来ていた。

「今日は、ほんとにありがとね!」

彼女は、両手を胸の前で合わせながら言った。

あの香水の匂いだ。

カルバンクラインのエタニティ。

「全然いいよ。僕もなんか買い物したいなーって

 ちょうど思ってたから。」

買い物はどちらかと言えば苦手だ。

もちろん、人ごみだって。

でも、雪菜と一緒にいる時は、

全てが、二人だけの世界のように思えた。

だから、どこに居たって 何をしていたって

ただ、その世界が動いているだけだった。

「じゃあ、行こ!」

彼女が僕の腕を引っぱって歩き出した。

その手は、僕の腕から掌へともっていかれた。

初めてだった。

女性と手を繋ぐなんて事は。

その手は温かかった。

それは、彼女のもった心の優しさを表しているのだろうと思った。

「なんか、この方が自然じゃない?」

彼女は周りをみながら言った。

周りをみると、手を繋ぐカップルや腕を組むカップルが

たくさんいた。


そしてまずは、彼女の買い物に付き合った。

ラシックや松坂屋の色んなお店をまわった。

僕は、そういう女性もののフロアに足を踏み入れる事が

初めての経験だった。

男もののフロアよりもすごく活気があった。

彼女が試着している間、恥ずかしくて店の前で待っている彼氏や

試着ブースの前で待って、彼女の試着した彼女を誉めている彼氏や

僕にはそれが新鮮に映った。

僕は、どちらのタイプかわからなかったが

それがわかるのに時間はかからなかった。

雪菜が試着している間、少しでも雪菜から

離れる方が恥ずかしかった。

試着室からでてきた雪菜は

黒いワンピース姿だった。

いつもの雪菜より、ずっと大人っぽくみえた。

女の人って洋服で変わるもんだなと感心していた。

「どう?いい感じ?」

笑顔の彼女に見つめられた僕はなんて答えればいいか

すごく迷った。

僕の精一杯の言葉で、誉めてあげたい。

「すごく似合ってるよ。」

やっぱり自分はダメだなとつくづく思った。

「なにー、それだけー?

 もっと言い方があるでしょっ?」

確かにそうだ。

そう言われないためにも精一杯考えた言葉だったのだが

僕のレベルがそこまでに達していなかった。

「でも、裕作くんがそう思ってくれてるなら

 買っちゃおうかなー」

と言いながら、試着室のカーテンを閉めた。

試着を終えた彼女は、黒いワンピースを

お店のお姉さんに渡した。

「これください。」

カバンの中の財布を探している彼女に

「結局、あれに決めたんだ。」

と僕は声をかけた。

「裕作くんが似合ってるって言ってくれたじゃん。

 だって裕作くんは、嘘はつかないでしょ」

と言いながら彼女はレジの方へ向かった。

確かに、僕は普段 嘘はつかないが

ひとつだけついてしまった嘘の誤解は

まだ解いていない。

だから僕は、今日こそは本当の事を言おうと

胸に決めて来た。

手遅れになる前に。



買い物を終えた僕らはとりあえずカフェに入る事にした。

カフェに向かう途中、信号待ちで彼女の携帯電話が鳴った。

「ちょっと、ごめんね!」

と言った彼女は電話をでた。

「もしもーし!ましろ?今日の夜は暇?」

ましろ?

すごく昔に口にした、懐かしい人の名前だったはずだ。

ましろ。

また思い出せないでいた。

「今日は、無理なの。ごめんねー。」

電話のやりとりが済んだ頃には

信号は青へとかわっていた。

僕らは歩き出した。

しかし、なぜ”ましろ”という名前が出てきたのだろう。

彼女の名前は雪菜だ。

恐らく、僕が聞き間違えたに違いない。

しかし、ましろという女性が誰なのか

ずっと思い出そうとしていた。

「ねえ?どうしたの?急に静かになって。」

「いやっ!何でもないよ。カフェで何飲もうかなーって

 ちょっと考えてただけ!」

「そっかー。でもどうせホットコーヒーでしょ?」

彼女は自信ありげに僕に問いかけた。

「当たり!」

彼女は、満足げな表情を浮かべた。


そして僕らはカフェに入った。

席についた僕たちは、コーヒーとカフェオレを注文した。

「裕作くん、今日は付き合ってくれてありがとうね!」

「いいよ。僕も楽しかったよ。」

「本当にそう思ってるの?」

雪菜は、わざとちょっと疑ったような目をして

僕をみた。

「本当だよ。嘘じゃないよ!」

「なら、その言葉を信じよっかな」

疑ったような目が、いつもの雪菜の目にかわっていた。

「それより、夕食は何が食べたい?」

僕に質問している姿から、彼女の楽し気な感じが伝わってきた。

「うーん。特にないなー。雪菜ちゃんにまかせるよ」

「ダメ!今日は、付き合ってくれたお礼に

 私が裕作くんにご馳走するって決めて来たんだから!」

彼女は、断固譲りません!といわんばかりの姿勢を僕にみせてきた。

「じゃあ、強いて言うなら焼き肉かなー。

 最近、食べてないしなー」

「じゃあ、決まりね!」

彼女は満足げに言った。

時刻は、もうすぐ午後7時になろうとしていた。

「ちょうど、いい時間ね!

 実はというと私すごくお腹がぺこぺこなの。

 裕作くんは?」

「僕もだいぶ、お腹が減ったよ。

 今日はずいぶん歩いたし。」

そんな事よりも、伝えなければいけない事がある。

早く誤解を解きたい!

「ちょっと、話があるんだ。」

僕は、場所もタイミングも見計らずに切り出した。

「どうしたの急に!?」

彼女は驚いた様子で言った。

「実は、ずっと言おう言おうと思ってて

 今まで言えずにいたんだけど。

 とにかく、僕は医大生じゃないんだ。

 初めて会った時にたまたま手にとった本があれで

 つい出ちゃった言葉なんだ。本当にごめん!」

僕は、頭を下げて謝った。

彼女は今、どんな表情をしているんだろう。

やっぱり怒るに違いない。

僕は嘘をついたんだ。

頭を上げて彼女の顔を見るのが怖かったが

頭を上げ、彼女の表情をうかがった。

彼女は、真剣な表情で僕の目をまっすぐに見ていた。

僕は、凍りつきそうになった。

そして彼女は口を開いた。

「名古屋学園大学 経済学部に在籍の4年生。

 高橋裕作くん。」

僕は驚いた。

今まで大学の話は避けてきたから

彼女が知る訳はずはない!

「知ってたよ。あなたが医大生じゃないって。

 あの時に医大生って聞いたのは軽いジョーダンのつもりだったの」

僕はあの図書館での出来事を思い出していた。

確かに僕の持っていた本をみて、

もしかして、医大生?と最初に切り出したのは彼女の方からだった。

その言葉の流れで、僕は嘘をついてしまった。

だからといって、彼女の責任にするつもりはないが

何で、本当の事を知っているのか気になって仕方がなかった。

すると彼女は、

「そんな事はもういいから、早く焼き肉食べに行こ!」

と言いながら席を立った。

その表情はいつものように優しい雪菜に戻っていた。


















ノンタイトル~本編12~


2008年12月5日 金曜日


電話が鳴った。

着信をみると、留学していた剛志からだった。

「もしもしー、おれだけど元気にやってたかー?」

剛志のその声がすごく懐かしく思えた。

「おー剛志じゃん!久し振り!もう帰国したの?」

「今、成田に到着だよ。これからまた飛行機で

 名古屋に帰るよ。」

唯一の相談できる剛志が帰ってくると思うと

雪菜へとはまた違った、ワクワク感を抱いた。

「そっか、こっちは剛志がいない間にいろいろあって大変だったよー。」

「それより、今日の夜は暇か?」

「うん、暇だけど。」

「なら、夜にでも久し振りに飲みに行こうぜ!

 土産も渡したいしさー。」

その言葉が、すごく温かく感じた。

今もうこの瞬間にでも、雪菜との事を話したい気持ちでいっぱいだったからだ。

「僕も、いろいろ話したい事があるからオッケーだよ!」

「なら、7時にいつものスタバ前に集合な!」

「了解!名古屋まで気をつけて!」

剛志はちょうど2週間前に、オーストラリアへと発った。

たった、2週間だが、剛志の声がすごく懐かしく感じたのは

ここの所ずっと、非日常的な場面が多すぎたせいだろう。

雪菜と出会ってから、今日までもう何年間も時が過ぎたかのように

僕の心だけが、少し大人になった気がしていた。



午後7時。

スタバの前で待つ僕は、昨日よりも増したこの寒さと戦っていた。

今日の午前中に降った雨は、本格的な冬の寒さを連れてきたみたいだ。

僕のマフラーも、この寒さには対応しきれない。

「おー、裕作ー!」

剛志の声だ!

振り返ると、剛志がこっちにむかって歩いていた。

茶系のレザーのブルゾンに、いい具合に色落ちしたジーパンといった

剛志らしい格好で彼はやってきた。

「とりあえず寒いから、早く店に入ろうぜ!」

剛志もこの寒さには参ってるみたいだ。

メイン通りから、1本裏へはいった居酒屋に入った。

忘年会シーズンで、団体客の姿が目立った。

僕らは、テーブル席に通された。

「待たされなくて良かったなー」

「僕も今日は少しやばいと思ったよ。

 だって金曜日だしね。」

12月の週末は、だいたいどこのお店もお客で埋め尽くされる。

お店にとっては、かっこうの稼ぎ時だ。

お店の女の子が、注文をとりにきた。

その瞬間、僕は雪菜がいると思った。

剛志は、そんな僕をよそに適当に注文をしていた。

そして、その女の子が立ち去ろうとした時に

ようやく気がついた。

「同じ香水だ」

「香水?どうしたんだ急に?」

「あの娘のつけてた香水が一緒なんだ」

僕は、何か大事な事を忘れている気がした。

「誰と一緒なんだよー。」

話が全く読めない剛志は、少しふてくされていた。

僕は、大事な何かを思い出せないでいた。

「雪菜と、もうひとり。」

もうひとりいる。

誰なのか、思い出せない。

むしろ思い出させないように、

自分の頭の中の、リミッターが働いて思い出させないように

されている感覚だった。

「もうひとりって誰だよー。
 
 しかも雪菜っておれの知らない女の名前がおまえの口から

 でてくるなんて、びっくりなんだけど。」

そうだった。

僕は今まで、恋の相談なんてした事もなければ

女の子の名前を口にしたことなんてなかった。

あえて言うならば、好きな芸能人の名前ぐらいしか

女の子の名前は口にした事はなかった。

僕は、まず雪菜の話を剛志にした。

図書館で初めて出会ってから、

今までの事について。

剛志は、始めは僕にそんな出来事が起きるなんて

思ってもいなかったといわんばかりの

形相で、話を聞いていた。


話が一段落ついた頃には、剛志は3杯目の生ビールを

飲み始めていた。

「それで、おまえは完全に恋に落ちたって事か。」

剛志の目線を、僕を通り超して遠くを見つめていた。

頭の中で、いろんな事を整理しているのだろうと思った。

その時、僕が注文していた軟骨の唐揚げが運ばれてきた。

運んで来たのは、あの香水の子だ。

「失礼しまーす。軟骨の唐揚げになりまーす。」

軟骨の唐揚げを、テーブルに置いた時に

剛志が、話だした。

「お姉さんの使ってる香水って何?

 すごくいい匂いで、気に入っちゃってさー」

僕は、不意をつかれた感じで呆然とした。

「香水?ですか?仕事の時には基本的につけないんですけど

 下に着ているニットに匂いが残ってるのかな。」

「で、どこの香水なの?」

「あっ、私がいつも使ってるのは

 カルバンクラインのエタニティっていう香水です。」

エタニティ。

昔にも、聞いた名前だ。

絶対に。

「そっかー、今度のクリスマスは彼女にその香水を

 プレゼントするよ!有難うね!」

そして剛志がお礼を言うと、その娘は微笑みながら会釈をして去って行った。

感じの良い娘だった。

剛志は満足げに

「これで、今度のクリスマスには彼女の使ってる香水が

 プレゼントできるな!」

剛志は僕が、その香水がどこのものか気になっていると勘違いしていた。

そうではないのだ。

僕は、掛け違えたボタンをなおせずにいる感覚がずっと続いていた。

剛志はニコニコしながら言った。

「おまえに、好きな女性が現れるなんてなー。

 その恋は大事にした方がいいぞ!」

剛志は、ひとり興奮気味だった。

「あー、わかった。

 大事にするよ。」

とりあえず僕は、そう答えておいた。

彼女と出会ってから、昔の夢をみる事になったとか

ややこしい話は、今日はしないでおこうと思った。

むしろ、それを話す事が少し怖いと思った。


そして、剛志は思い出したかのように

カバンから袋をとりだした。

「そうだ!忘れる前に渡しておくよ。

 オーストラリアのお土産。」

と言って僕に手渡した。

「開けていい?」

僕は聞いた。

「おまえが気に入る保証はできないけどなー」

僕は、中を開けてみた。

それは赤いTシャツだった。

「どうだ、かっこいいだろう?

 おまえはもっとおしゃれとかを気にすれば

 そこそこのいい男にはなると思ってさー。」

「でも季節はずれ?だね。」

といいながら、僕は入り口にさっき入ってきた

コートを着て寒そうにしている人の方へ

目線を向けた。

「そうだな。確かに!」

剛志は笑った。

「でも、来年の夏には活躍する事 間違いなしだ!」

僕は、嬉しかった。

僕の事をちゃんと考えてくれる

唯一の友達というのを再確認できたからだ。

「季節はずれでも嬉しいよ、ありがと!」

季節はずれ。

そう雪菜の笑顔もそうだった。

いつも、季節はずれのひまわりのように

すごく元気に、そして輝いていた。


すると、僕の携帯電話が鳴りだした。

着信をみると雪菜からだった。

「雪菜って、子か?」

剛志はニヤニヤしながら聞いてきた。

僕は、ひとつ頷き

通話ボタンを押した。










 
















2008年12月6日土曜日

タイムリミット。


お久しぶりです。

のほほん工房のTOFUです。

今日の小説は、お休みさせて頂きます。

いつも楽しみに待っててくれてる読者の方々!

本当にごめんなさい!

でも、読んでる人がいるかは疑問?です。

明日は、早朝からゴルフでお休みする事になりました。

12時をタイムリミットで、さっきまで小説を書いていたのですが

まだ、中盤を過ぎたぐらいでまだあと1時間弱ぐらいかかりそうなので

明日にする事にしました。

とりあえず、明日は前回よりも好スコア目指して!

頑張りたいと思います!


それではみなさん、また明日!

おやすみなさい!

2008年12月4日木曜日

ノンタイトル~本編11~

2008年12月4日 木曜日

真っ暗な闇が、僕を孤独の底へと導いていた。

どんどんひきづられて行く。

暗闇は、果てしなく広がっている。

しかし、声が聞こえた気がした。

「裕ちゃん。」

呼ばれた方向に、目をやると

小さな光がみえた。

僕はその小さな光の方へと歩き出した。

近づけば近づく程に、その光は徐々に大きくなり

やがて僕を大きな光が包み込んでいた。

気がつくと、僕は小さい頃に住んでいた家の前に立っていた。

そこへ、黒い服をきた人達が数人玄関の前に集まっている。

僕はそこをすり抜け、家の中へと入っていった。

木の香り、茶色い土壁、柱についた傷、

全てが懐かしかった。

和室の方から、お経とすすり泣きが混じった音が聞こえていた。

僕は、ミシミシと廊下を鳴らせながら和室へと向かった。

和室の手前で、胸が苦しくなってきた。

入ってはいけない直感的なものが働いたのだ。

しかし、僕は覗いてしまったのだ。

おばあちゃんが泣いていた。

その隣にいるのは、僕だ。

そこに座っている僕は、無表情のまま遠くを見ていた。

その目には既に感情が失くなっていた。

僕は思い出した。

この前の日の晩、病院で冷たくなった

3人の遺体の前で、一生分の涙を流した事を。

枯れた涙は、一緒に僕の感情まで奪っていった。


喪主を務めてくれたのは、ひろゆきおじさんだった。

ひろゆきおじさんは、お焼香をしてくれた人達に

丁寧に頭を下げていた。

おばあちゃんも、握りっぱなしのハンカチを目頭にあてながら

頭を下げていた。

小さい頃の僕は、微動だにしない。

僕は、お坊さんのお経の声の方へと目を向けた。

棺桶があった。

これ以上は、見たくはなかった。

もう、これ以上過去に触れるのは危険だと思った瞬間、

黒い額に飾られた3枚の写真が、目に飛び込んできた。

「父さん」

「母さん」

「みのる」

僕は、足がすくんでしまった。

「そうだ、僕は取り残されたんだ」

心の奥深くにあった、僕の記憶の堤防が決壊しようとしていた。


廊下の方から電話の音が聞こえる。

その音に、引き寄せられるように自分の体を持っていった。


電話の前で、僕は受話器に手を伸ばした。

「もしもし。」

僕は、何かを探るような言い方で電話をでた。

「もしもし?裕作くん?」

この声は・・・。


僕は目を覚ました。

気が付くと、携帯電話を左手に握っていた。

しかし、電話から声がする。

「もしもーし。もしもーし。裕作くーん。」

雪菜の声だ。

「もしもし、ごめん。」

「あっ、こっちこそごめんね。起こしちゃって。」

「いいよ。全然平気。」

「ねー、裕作くん あさっての土曜日は予定はいってる?」

「うーん、特に予定はないけど。」

「なら、空けておいてね!詳しい事はまた明日連絡するから!

 ゆっくり寝てね!」

「あー、わかった。それじゃあ、おやすみ。」

「うん、おやすみね。」

僕は電話をきった。

電話の途中で気がついたが、着ていたシャツが汗でびっしょりと濡れていた。

何かの歯車が、狂ってきている。

それは、日を追うごとに増していた。

青だったシグナルは僕の知らない間に、赤へとかわろうとしていた。












2008年12月3日水曜日

ノンタイトル~本編10~

2008年12月3日 水曜日

僕は午後6時の待ち合わせよりも15分早く映画館に着いた。

待ち合わせは、この間ひとりで来たあの映画館だ。

エスカレーターを上がり、自動扉を抜けると

もう彼女は来ていた。

僕に気がつくとニコッと微笑んだ。

そして、小走りで僕の方へと来た。

「なんか、一人で恥ずかしかったー。

 まるで一人で寂しく映画を観に来てる人みたいで。」

それはこの間の僕の事だ。

しかも一度観た映画をまた今から観ようとしているのだ。

「そんな事ないよ。遠目からも待ち合わせっぽく見えたよ!」

いつの間に女性に対して自然にフォローができる男になっている事に

心の中で驚いていた。

「そっかー。良かったー。」

ふと、あの香水の香りが漂った。

彼女のいつも使っている香水だ。

すごく、落ち着く匂いだ。

でも、ずっと昔にもこの匂いを知ってるような

不思議な感覚が目覚めようとしていた。


彼女と初めて出会ってからだったかもしれない。

昔の記憶が、僕の心の奥の奥から

どんどん鮮明に蘇ろうと何かがもがいている。

だが、それを僕は必死に押さえていた。

もう思い出したくない過去だ。

僕は未来を生きる事に決めたんだ。

ほら、こうして彼女と1歩づつ前へ進んでいるんだ。

僕は、変われる。

彼女となら。


「ねえ、どうしたの?

 なんか怖い顔してー!

 こんなかわいい子を目の前にしてるのに!

 ほらー、ニコッてしてみて!」

僕は、彼女にニコッとされて、

自然と、頬が緩んでしまった。

「うーん、なんか”ニコっ”ていうよりも

 ”デレー”って感じだったけどまーいっかー。」

そんな、恋人同士のようなやりとりが新鮮に感じた。


そして僕は彼女を待たせて、チケットを買いにいった。

彼女の元に戻ると

「ねー、入る前にお手洗い行ってきてもいい?」

と、子猫のような目で僕に聞いてきた。

未だに、こうして見つめられると、ドキッとする。

こんな症状に効く薬なんて、病院行ってももらえないだろうなと思った。

「あーいいよー。僕はここで待ってるから。」

「じゃあ、すぐ戻るから待っててね!」

僕は彼女の後ろ姿を眺めながら閃いていた。

ポップコーンとコーラ!

僕は急いで、ポップコーンを1つとコーラ2つを注文した。

僕はチケットを、ジャケットの内ポケットに押し込んだ。

そして、ポップコーンとコーラがのせられたトレーを持ち

彼女は、喜ぶだろうなと思いワクワクしながら待った。

「おまたせー!ってどうしたの!?そんなに買い込んで!」

「えっ!映画にはポップコーンとコーラじゃないの?」

「それは人それぞれよー!しかも私、炭酸飲料が苦手だし!」

やってしまったと思った。

仲良く二人で買いに行った方が、よっぽど得点は高かっただろう。

少し落ち込んでしまったが、1つ勉強になった。

「じゃあ、入ろっか!」

「炭酸が苦手だったら他のものを買ってくるよ。

 何がいい?」

「もういいの!もったいないし。時間が経てば炭酸くんたちも

 どっかいっちゃうし。それから飲むわ。」

彼女の大人な意見に圧倒されていた。

でも、かわいらしいその言い回しが僕は好きだった。

「わかった。でもごめんね。」

「うんいいの。それより早く行こうよー!」

「そうだね。」

彼女は大人だし、優しいし、何より可愛らしい所が素敵だった。

こんなできた女性、なかなかいないだろうなと思った。

「チケットは?」

彼女は僕のトレーを持つ手を見ながら聞いて来た。

「あっ!ジャケットの内ポケットだ!」

「右?左?」

「左!あっ、僕から見て左だ!」

「って事は右ね。」

彼女は僕に1歩近づきジャケットの内ポケットに手を入れた。

手を伸ばせばすぐに彼女を抱きしめられる程の距離だった。

こんなに彼女と近づいたのは、初めてだった。

彼女の髪は近くでみると、まるで子供の髪のように艶やかで

彼女が少し動く度にほんのりとシャンプーのいい匂いがした。

「あった!ほら!」

ほんの数秒の事だったが、僕にはすごく長い時間に思えた。



映画は開演した。

主演の綾瀬はるかもかわいいが隣に座っている

片瀬雪菜も、負けてはいない。

一度観た映画だったが、意外と映画に気持ちが入り込めた。

この間、独りで来た時には、綾瀬はるかの笑顔を見るたびに

彼女の笑顔を思い出していた。

しかし、その彼女は今は僕の隣に座っている。

こんな、幸せな事が僕にあっていいのだろうか。

「ねえ。」

彼女が小声で僕にささやいた。

「何?」

「もうコーラの炭酸、抜けたかなー」

「僕のはもう抜けちゃってるから大丈夫だと思う。」

「了解!」

彼女は、コーラに手を伸ばし

少し飲んでみた。

そして僕の方をみてニコッと笑った。

大丈夫だったよって意味だろう。

そんな無邪気な所も、愛おしく思えた。


彼女は僕の事をどう思っているのだろう。

僕の答えは決まっている。

彼女とずっと一緒に歩き続けたい。

永遠があるならば、それを信じたい程に。



映画は幕を閉じた。

僕らは、エンディングの途中で退席した。

「あーおもしろかったー。

 でもやっぱり、綾瀬はるかはかわいいねー。」

僕は、君の方が可愛いよと言おうとしたが

恥ずかしくって、口にはできなかった。


時刻は20時を過ぎていた。

彼女がラーメンを食べたいなと言ったので

二人で、近くにあったラーメン屋に行く事にした。

二人ならんで、歩いていた。

ふと彼女の方をみると、彼女は何か言いかけようとしていた。

「どうした?」

彼女は少しはにかみながら、

「ねーメールアドレスの交換はしたけど

 電話番号はまだ教えてもらってないなーって思って。

 できれば、教えて欲しいかも。。。」

すごく照れているのが、僕にも伝わってきた。

「僕も教えて欲しかったんだ!電話とかもしたいし!」

僕らは、電話番号の交換をした。


横断歩道の向こうにある、ラーメン屋の窓は熱気と湯気で

白く曇っていた。



僕と彼女の関係もいつかこんなに曇る日がくるのだろうか。

高架の上に電車が走った。

街の音が一気に消え去った。

まるで、あの時のように。
















2008年12月2日火曜日

ノンタイトル~本編9~

2008年12月2日 火曜日




「片瀬雪菜です。今日は来てくれてありがとう。」

やっぱり彼女の笑顔は、誰よりも輝いてみえた。

「高橋裕作です。今日は、会えて嬉しいよ。」

僕らは、きちんとした自己紹介をしたことがなかった。

だから第一声は、彼女なりの自己紹介をまじえた挨拶にしたのだろう。





図書館には、僕の方が先に着いた。

少し、張り切り過ぎたかもしれない。

彼女が来るまで、本を読みながら待っていた。

約1時間が経った頃だろうか。

彼女が来てくれた。

約束通りに。

些細な事だが、それが妙に嬉しかった。



そして、僕たちは場所を移す事にした。

なぜなら、ここは図書館だったからだ。

周りの人に迷惑をかけてはとの、彼女の配慮だった。

そして、彼女が行ってみたかったという近くのカフェにはいった。


パステルカラーのタイルに、真っ白い壁の店内は

今までの僕とは、無縁ともいえるお店だった。


「ご注文は?」

白いシャツのお姉さんが、注文をとりに来た。

「僕はホットコーヒーで。」

いつもは、カフェオレを頼む僕だったが、

その言葉を口にするのが、少し恥ずかしかった。

「私は、カフェオレのホットでお願いします。」

やっぱりカフェオレは、女の子の飲み物なんだなと

僕はひとり勝手な解釈をしていた。

「かしこまりました。少々、お待ち下さい。」

そう言ってお姉さんは、カウンターの中へ入って行った。


そして改めて気がついた。

僕は、彼女と二人きりでいる。

しかも、僕の目の前に座っている。

まだメニューを見ている彼女が

ふと視線を僕の方へ上げた。

一瞬、ドキッとした。

僕は、この一瞬で緊張という名のボルテージが

どんどん上がって行くのを掌で握られたたくさんの汗で実感していた。

「ねえ、何からお話する?

 私たちお互いの事なにも知らないもんね。

 なんか不思議。」

そうだ、だから今日こそは誤解を解くんだ。

僕は医大生じゃないって。

普通の経済学部の学生だって事を。

「僕は・・・」

と話始めたが 乾いた口を、一度潤そうと水を飲んだ。

「ねー私、ケーキが大好きなのよね!」

さっきまで彼女が開いていたメニューに

大好きなケーキを見つけたらしい。

「一緒に食べようよー!」

確かに、僕もケーキが大好きだった。


小さい頃 お隣に住んでいた

おばさんが時々持ってきてくれるケーキの味は格別だった。

特に、僕がお気に入りだったのが

おばさんのつくった、イチゴのショートケーキだ。

しかし、もうあのケーキを食べる事は

2度とできない。

あの記憶が蘇り、彼にまた深い闇が襲いかかろうとした瞬間だった。


「すみませーん!」

彼女の大きな声に、ふと我に返らされた。

「えーっと、この大きな苺のショートケーキをひとつお願いします。」

「ショートケーキ好きなの?」

「うん、ケーキの中で一番大好き!

 これだけは小さい頃からかわらないの。」

一瞬だった。彼女が寂しげな目をしたのを僕は見逃さなかった。

話題を変えよう。僕はそう判断した。


「普段は、何をしてるの?」

瞬時で思いついた、精一杯の質問だった。

「学生よ。今4年生。」

「じゃあ、僕と一緒じゃん!」

「でも私、カナダに1年間留学してたから
 
 歳は私の方が1つ上だと思う。

 私って、やっぱりおばさんかなー。」

「そんな事ないって。でもすごく大人っぽくみえるよねっていうか

 すごくかわいらしいというか。

 僕ダメなんだ。こういう表現が下手で上手く言えないんだ。

 ごめんね。」

「何で謝るのよー。謝る所が間違ってるわ。」

「そうだよね。ごめん。」

「ほーら!また謝ったー!」

彼女は笑顔で言った。

なんだか僕も笑えて来た。

僕は、すごく幸せだった。

他のお客さんたちから

僕らはカップルにみられているのだろうか。

それとも、不釣り合いな二人だから

友達同士と思われているのだろうか。

「ねえ、実家が名古屋なの?」

「違うよ。名古屋は大学からで一人で暮らしてる。」

「あっそうなんだ。なら私と一緒ね。
 
 私の実家は、静岡なの。」

「あのお茶で有名な静岡なんだー。
 
 僕の実家は、横浜だけどもう今はないんだ。実家が。」

「そうなんだ。大学の前はどこに住んでたの?」

「岐阜のおばあちゃんの家で小学校の途中から高校まで暮らしてた」

「岐阜かー。私はまだ行った事がないなー。西と東には強いんだけど

 北の方にはめっぽう弱いの。」

僕は、意外だった。

突っ込んだ質問をしてくるのに

それ以上を踏み込んで来ない。

彼女なりの優しさなのかなと僕はそう思い込んだ。

しかし、こんな事まで話した事があるのは

今まででも、ほんの限られた人間にしか話していない。

自然と彼女に心を許している自分に気がついた。

というよりも、分かち合って欲しかったのだろうか。

あの、12年前の記憶を。


それから、いろんな話をした。

彼女が、意外と僕の家から近かった事や、

僕が、コンビニと郵便局でバイトしてる事。

あっという間に、2時間が過ぎた。

「今日はいっぱいお話できたね!」

「うん。すごく楽しかったよ。」

本当に心の奥底からでてきた素直な言葉だった。

こんな、自分が自分で信じられなかった。

「ねえ、映画とか好き?」

「好きだよ、どうして?」

「じゃあ、お願いがあるんだけど。

 ずっと気になってた映画があって、

 その映画を一緒に観に行ってくれないかなーって思って。

 どうかな?」

彼女は、少し不安げな目で僕に問いかけた。

僕は今にも、その目に吸い込まれそうになった。

「全然いいよ!僕も行きたいと思ってたんだ!」

「良かったー、でも嬉しい。

 じゃあ、明日行こうよー」

「えっ!?まー僕は構わないけど。

 で、何の映画なの?」

「えっとねー、ICHIっていう綾瀬はるかが出てる映画なの。

 知ってる?」

知ってるも何も、この間独りで観に行った映画だ。

そんな事、口が裂けても言えない。

「あー、僕もちょうど観たいと思ってた映画だよー」

また嘘をついた。

あの誤解もまだ解いていないのに。

でもこの嘘はついてもいい嘘だと勝手に思い込ませていた。

「じゃあ決まりね!」

彼女は満足げな表情を浮かべた。


僕は、このままずっと彼女とこうして話していたかった。


帰ったら、家で独りきりになるのが怖くなっていた。