2008年11月25日火曜日

ノンタイトル~本編2~

2008年11月25日 火曜日

昨日の雨も上がり

今日は天気が、回復した。

ニュースを、観ていると

年末ジャンボの発売やら、羞恥心が紅白出場やら

年末ムードがたっぷりの話題に嫌気がさしていた。


このところ、自分が自分じゃないような

感覚に陥る事が多々ある。

基本は、気持に浮き沈みなど あまりない方だが

最近は、浮いたり 沈んだりと

あてのない潜水艦のようだ。


時計の針は、8時を指していた。

「そろそろ、出るか」

僕はガスの栓がきちんと締まっているか確認し、

玄関を出て、アパートの階段を下りた。

今日は、予報の通りに天気が良い。

僕は自転車に乗り、学校へ向かった。

街もすっかり冬景色へと移りかわっていた。

街路樹の木々の色、行き交う人の服装、

それに朝の冷えきった車の出す真っ白な排気ガス。

このまま、僕は何度も同じ季節を繰り返しながら

いつの間にか、歳をとって行くんだろうなと

頭の中で考えていた。


学校に着いてからは、いつものように講義に出席し

あっという間に、午前の授業が終わった。

今日の授業は、何も聴いていなかった。

なぜなら、今日の図書館の事で頭がいっぱいだったからだ。

こんなにいろんな事を考えながら、

講義を聴き、ノートもしっかりとっていたら

僕は、きっと医学部にはいっていただろう。

幼い頃から、そんなに器用でもなければ、勉強が好きでもない。

だから、こうして平凡な大学の経済学部に在籍しているのだ。

「医学部なんて、夢の話だよな」

僕は学食で、Aランチを食べながら、ひとりつぶやいていた。

ちなみに今日のAランチは、唐揚げだ。

昔から、唐揚げは僕の大好物だった。

ご飯も食べ終え、僕は学校を出た。

今日は、自転車を漕ぐ足が鉛のように重い。

彼女にすごく会いたい気持ちよりも

嘘をついた罪悪感が、僕の心の中を勝っていたからだ。

僕は、嘘を今までついた記憶がほとんどない。

友達同士での、ささいなジョーダン混じりの

嘘はあると思う。

しかし今回のような、自分の一番嫌いな嘘のつき方は

初めてだったし、相手がすごく気になっている異性なら

僕の中で、収拾がつくはずもない。


図書館は、いつものように

僕を迎え入れてくれた。

ゲートをくぐり

いつもつかうエレベーターの手前にある階段で、2階に上がっていった。

そして、いつもとは逆の方向へ進んで行き

少し奥まった席に、僕は落ち着いた。

「さて、後は本だな」

本を探しに行く時も、すごく慎重に行動した。

今度は、急に彼女に出くわした時の言葉も

ちゃんと考えてある。

同じ、過ちを2度する程 僕も馬鹿じゃない。

そして、今日の本を3冊かかえて席に戻った。

「ふー。」

なんか、すごくほっとしていた。

まるで、自分は指名手配犯みたいだなと思いながら

最初の本の、ページをめくり始めた。



どれくらいの時間が経ったのか。

外は、もう暗くなっていた。

既に2冊の本は読み終わり、

3冊目の半ば程まで、読み終えていた。

「そろそろ、帰らなくちゃな」

帰り支度をし、また慎重に行動しながら

本を元あった場所に戻した。

でも、人もほとんどおらず、彼女のいる様子すらなかった。

「今日は、セーフ!」

でも、彼女に会えなくて

がっかりしているもうひとりの自分がいた。

「セーフじゃなくて、アウトなのかな」


そして、図書館を出て自転車置き場へと歩いていった。

自転車の鍵をはずすために、少しかがんだその瞬間だった。

「よっ!医大生君!」

後ろから、聞き慣れた声がした。

振り返ると、彼女が立っていた。

「あっ、どうも」

「今日も熱心にお勉強、ご苦労様!」

「あっ、ありがとう」

「でも、どうしたの?こんな所で?」

「ねー、聞いてくれる!?」

「自転車が盗まれたみたいで、もう1時間ぐらい

 捜してたんだけど、もうあきらめて帰ろうかなって

 思ってた所なの。」

「ついてないわよねー。」

状況を把握した、僕は咄嗟に言った。

彼女を前にすると、緊張のせいか少し頭の回転が遅くなってしまう。

「次は、いつ来るの?」

「えっ!明日も来るつもりだったけど。」

「なら、今日は暗いし僕の自転車で帰りなよ!」

「僕の家なら、ここからすぐだからさ!」

「えっ、いいわよ。私は大丈夫だよ。電車で帰れるから。」

「いいって、いいって。鍵の番号は”1125”だからさ。

 覚え方はー。あっ今日の日付だ!」

「だって今日は11月25日だろ?」

「だから、私は大丈夫だから。」

「それじゃ、僕もまた明日来るから!」

僕は、その場から走っていた。

少し強引だったかもしれない。

でもどうしても、僕の自転車を借りて欲しかった。

これで、昨日ついた嘘の罪悪感が少し和らぐ気がしたから。

「はあ、はあ」

走り始めて3分程で、もう息が上がってしまった。

歩こう

まだここから家まで、歩いて30分以上ある。

「たまには、運動も必要かー」

歩きながら、さっきの出来事を振り返っていた。

でも、冷静になればなるほど

ひっかかる事がたくさんでてきた。


なんで、彼女と一緒にもう一度自転車を捜してあげなかったのかとか、

なんで出てこなかったんだろう。

「家まで、送ってくよ」という自然な一言が。

自分の自転車と彼女を置いて

走って帰る男も珍しい。

考えれば考える程、自分が恥ずかしく情けなくなって来た。

完全に今日も、虚をつかれた。

同じ過ちを2度繰り返した。

次こそは、挽回したいと強く思った。

「よし、明日は彼女を送って行こう、

 そして正直に話そう!」

「僕が医大生じゃない事を!」

そう思った途端、気持ちがすごく楽になった。

そして、足取りも軽くなった。

「たまに、歩くのも気持ちいいなー」

夜風は冷えきっていたが、彼の心は温まっていた。


















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