2008年12月14日日曜日

ノンタイトル~本編19~

2008年12月10日 水曜日 第3幕

1996年12月17日の夜

真白の11歳の誕生日会。

テーブルを囲んだ6人の会話も弾んだ。

「真白ちゃんは、大きくなったら何になりたい?」

裕作の父、政彦は訪ねた。

「かわいい、お嫁さんになりたい!」

真白はすぐに答えた。

「裕作くんのでしょー?」

真白の姉、菜摘はさじを入れた。

「でも、来年の誕生日に同じ質問をしたら

 相手が変わってたりして!」

裕作の母、幸子がいたずらな顔をして言うと

また部屋中に笑い声が響いた。

笑えないのは真白だけだった。

「真白はずっと、変わんないもん!」

その表情は真剣だった。

すると真白の母、雪乃が言った。

「真白は本当に裕作くんの事が好きだもんねー。」

真白は少しむくれていた。

それを見た、雪乃は続けて行った。

「じゃあ、そろそろケーキでも食べましょうか?」

みのるは一番に声を出した。

「はーーーい!」

真白の表情にも笑顔が戻っていた。

「やったー!」

「じゃあ、少し部屋の灯りを消すわねー」

部屋が一瞬、暗くなった。

雪乃は台所からケーキを運んで来た。

灯された11本のローソクの火が揺れていた。

苺のショートケーキ。

酒を飲まない政彦も、甘いものが大好きだった。

「真白ちゃんのあ母さんの作ったケーキは

 どこのケーキ屋さんよりもうまいからなー」

政彦は、ケーキをみながら言った。

「私も、雪乃さんからケーキの作り方を教えてもらったけど

 やっぱり、先生にはかなわないものねー」

幸子もケーキをみながら、言った。

「そう言ってもらえると、作った甲斐があるわ!

 今日もいっぱい食べて行って下さいね!」

「ハッピバースデイ トゥーユー♫」

みのるが唄い出すとみんなも一緒に唄い始めた。

「ハッピバースデイ ディア 真白ちゃーん♫

 ハッピバースデイ トゥーユー♫」

「さあ、真白!ローソクの火を消して!」

雪乃が小さな声で真白に言った。

「ふーーー!」

1本だけローソクの火が残った。

「ふーー、ふーーー!」

全てのローソクの火が消えた。

次の瞬間、部屋の灯りがついた。

「真白ちゃん、誕生日おめでとう!」

みんなで拍手をしながら、お祝いの言葉を真白にかけた。

真白は、照れくさそうな表情で有難うといった。

早速、雪乃はケーキを切り始め小皿に分けた。

「いただきまーす!」

みのるは一番のりで食べ始めた。

至福の時間だった。

みんなは、ケーキを口に頬張りながら

おいしいという言葉を何度も言いながら食べた。

雪乃は、みんなの表情を満足そうにみていた。

それからも、楽しい時間は続いた。

裕作のお母さんから、真白へプレゼントが渡された。

真白が箱を開けて中をみると

キラキラとした石でデコレーションされた写真立てだった。

その写真立てには、この年の夏にみんなでバーベキューに

行った写真がはいっていた。

「ありがとー!嬉しい!」

その写真に写る、2つの家族の表情は笑顔で溢れていた。


「もう寝ちゃったのー。仕方のない子ねー。」

気がつくと、みのるはソファで眠っていた。

しかし、幸子自身もひどい眠気に襲われ始めた。

「母さん、何だか。

 少し意識が。」

政彦にも異変が起き始めた。

意識がもうろうとした中で、

真白と菜摘にも異変が起きている事を

確認した。

「何で、どうしたのかしら・・」

真白はこの眠気と戦っていた。

「お母さーん。何か急に・・」

真白は、雪乃の方へ行こうとしたが

体がうまく動いてくれない。

しかし、真白はみた。

雪乃が泣いているのを。

雪乃だけがケーキを食べていなかった。

なぜなら、そのケーキには睡眠導入剤であるゾルピデムが混入されていたからだ。

看護士である雪乃が、それを手に入れる事は難しい事ではなかった。

意識がもうろうとした中で

雪乃の声が耳に入ってきた。

「ごめんなさい。

 本当にごめんなさい。

 あなた達、家族が本当に羨ましかった。

 憎い程に。

 あなた達がいけないのよ。

 私たち家族に対して、必要以上に優しくしたのだから。

 それがもう耐えられなくなった。

 同情されているようで。

 それに私には、もうあの子たちを育てて行く自信もないの。

 いっそ何もかもが失くなれば。

 そう私はもう楽になりたい。

 だから、今日ここで全てを終わらせるの。」

その右手には、ナイフが光っていた。

そのナイフは、意識のない政彦、幸子、みのるの順で

それぞれの体の中へと、はいっていった。

それはまるで地獄のようだった。

そして、そのナイフは菜摘の体の中にもはいった。

「ごめんね、こんなお母さんで。

 本当にごめんね。」

その手は、血で真っ赤に染められていた。

そして、その目は真白にも向けられた。

やめて・・。お母さん・・。

声にならない声で、真白は言った。

「真白、せっかくの誕生日だったのに

 本当にごめんね。

 でもね、お母さんは本当に真白も菜摘も愛してるのよ。

 それだけは、わかって。」

ついに真白の体にもナイフがはいった。

その痛みは、小さい体の女の子には

過酷すぎる痛みだった。

真白の右の脇腹には、まだナイフがはいっている。

真白の左の耳元で雪乃は囁いた。

「お母さんもすぐに行くから。」

体からナイフが抜けた。

真白は、その激痛から完全に意識を失った。

そして、雪乃は台所へ向かい、

ガスの栓を開いた。

空気がぬけるような嫌な音がし始めた。

「これで、終わったわ。全てが。」





 

 

 









 


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