2008年12月9日火曜日

ノンタイトル~本編16~

2008年12月9日 火曜日

降り続ける雨。

僕の心も穏やかではなかった。

昨日の晩の電話のせいだろう。

僕はもう疲れていた。

「早く終わらせよう。」



電話の呼び出し音が鳴り続けた。

僕の携帯電話を非通知設定にしたせいだろうか。

しかし、非通知に設定しなければならない理由があった。

「もしもし?」

彼女が電話をとった。

僕は、相手に気づかれないようにまず呼吸を整えた。

「もしもし、真白?

 おれだけどわかるかなー?」

僕は、自分を殺して精一杯他人の声で言葉をならべた。

「え!?誰?わかんない。」

彼女は否定しなかった。

「船場小学校の5年3組で一緒のクラスだった

 坂本 和也だよ!」

彼女の学年は1つ上だった。

その頃は、まだ4年生だった僕だが

たまに彼女のクラスに遊びに行く度に

生意気だった少年の事をまだ覚えていた。

「さかもと?

 あー、あの坂本くん!?

 サッカー部だった!」

そうだ。思い出した。

その少年はサッカー部に所属していた。

そしてとうとう核心に迫った。

「真白だよね?」

僕は最後に尋ねた。

彼女は誰なのか。

僕は息を飲んで彼女の言葉を待った。

「そうだけど、どうしたの急に電話なんて?」

その言葉が全てを物語った。

そう彼女は片瀬 雪菜ではない。

彼女の名前は広瀬 真白。

僕の初恋の相手。

そして、あの事件に関わっていた存在。

なぜ、彼女がまた僕の前に?

目的はなんなんだ?

僕はこの一瞬で、奈落の底に突き落とされた。

そして明かした。

「おれだよ。裕作だよ。」

「えっ。」

その言葉は小さく、そして短かった。

「裕作くんなの、本当に?」

彼女もこの状況にまだ頭の中がついて来れてないらしい。

今の僕のように。

「あぁ。」

僕はそれ以上の言葉が出なかった。

「何でこんな真似を・・・」

真白のその言葉で、僕の中で何かが弾けた。

「それは、こっちのセリフだ!

 何で今になっておれの前に現れた!

 それも名前を偽って!

 おまえの目的は何なんだ!」

僕は、気持ちの全てを彼女にぶつけた。

この間までの僕には想像もできなかった。

僕が彼女にぶつける気持ちは、

彼女に対する好きだという想いだとばかり思っていた。

しかし、今僕は怒りという全く正反対な感情をぶつけている。

少しの沈黙の後に彼女が口を開いた。

「私は、ただあなたに会ってきちんと話をしたかっただけ」

僕にはその言葉の意味が全く理解できなかった。

なぜなら、会って穏やかに話のできる相手ではないからだ。



1996年12月17日。

父さんと母さんとみのるは、殺されたのだ。

そう、僕の家族を殺したのは彼女の母親だ。

僕にとって、かけがえのない大切な家族の命を

たったひと晩で奪い去った。


彼女は深く息を吐き、続けて彼女は話始めた。

「わかった。きちんと話をするから

 あさって、私の家に来て欲しいの。」

彼女は一気に言葉を吐き出すように言った。

「もうおまえと会うつもりはない!」

もうこれ以上、僕の心を乱して欲しくはなかった。

もう傷つきたくなかったんだ、僕は。

するとすぐに彼女がこう答えた。

「会って、話すのが怖いのね。

 自分とそれにあの事件と、真っすぐに向き合うのが怖いのね。」

彼女は僕の心を見透かしているかのようだった。

正にそうだ。

自分自身の殻から抜け出したい、変わりたい。

そう思っていた。

だから、こうして真実を知るために雪菜だった彼女に電話をした。

嘘をついてまで。

しかし、いざとなったら僕は逃げようとしている。

彼女の言う通りだった。

僕は、まぶたを閉じた。

もう逃げるのはやめよう。

そして彼女の言葉に答えた。

「わかった。行くよ。あさって。」

もう終わらせよう。

全てを。

そして、新しい人生を迎えるんだ。



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