2008年12月13日土曜日

ノンタイトル~本編18~

2008年12月10日 水曜日 第2幕

「話してくれよ。その覚悟はある。」

「あの日、裕作くんも覚えていると思うけど、」

真白が話し始めた。

僕は、ごくんと唾を飲み込んだ。

そう、あの日。

僕も一緒に行くはずだった。

真白の誕生日会に。


1996年12月17日

「あー、僕も真白の誕生日会に行きたかったなー」

トーストを食べながら、台所に立つ母に言った。

「しょがないでしょ、明日おばあちゃんが

 裕作を迎えに行けなくなったんだから。」

次の日に、おばあちゃんの家に一人で行くはずだった。

しかし、それが1日早まってしまった。

おばあちゃんは3年程前から、近所の友達と

オカリナ教室に通っていた。

おじいちゃんが他界して1年が過ぎた頃だった。

僕は、おばあちゃんのオカリナが大好きだ。

12月18日にオカリナの演奏会が街の小さな文化ホールで開催される話は、

3ヶ月程前に聞いていた。

次の演奏会には絶対に行きたいと僕がおばあちゃんに言ってあったからだった。

おばあちゃんも僕が来てくれるのを心待ちにしながら練習していたと

母さんが言っていた。

「でも僕が行かないって知ったら、真白がっかりするだろうなー」

真白のがっかりした顔が、目に浮かんだ。

「そうね、今年は残念だったわね。

 そのかわりに、24日はうちでクリスマス会をしようかと思ってるのよ!

 でもケーキだけは真白ちゃんのお母さんにお願いしなきゃね!」

そう、うちの家族と真白の家族は仲が良かった。

真白の家は、お母さんとお姉さんと真白の三人暮らしだ。

看護士である真白のお母さんは、一人で一家を支えていた。

真白のお父さんは、真白が物心つく前に出て行ったと

一度だけ、母さんが話してくれた事がある。

小学生に、大人の事情はまだ理解できないと思ったからだろう。

そんな母子家庭を、傍から見ていてはじめに声をかけたのが

僕の母親だった。

まだ、僕も幼かった頃に。

公園でいつも仲良く遊ぶ親子3人に

僕の母親は、声をかけた。

それが全ての始まりだった。


昔から僕の家には、親戚付き合いがなかった。

というよりもできなかったと言った方が正しいだろう。

母は1人娘だったが、父には兄がいる。

それがひろゆきおじさんだった。

しかし、ひろゆきおじさんは僕の父に会うのを

必要以上に避けていた。

そのせいからか、ひろゆきおじさんは

家族を失った僕を引き取るのを拒否したのだろう。


僕の家族と、真白の家族。

親戚以上の付き合いになるのには

そう時間はかからなかった。

だからこの日、真白の誕生日会に僕の家族が招待されたのは

日常的な、ごく普通の出来事だった。


おばあちゃんの家に行く準備の整った僕に

玄関から父さんが声をかけてきた。

「準備できたかー裕作。

 そろそろ行くぞー。」

「うん、今行くー!」

僕は、慌ただしく階段を駆け下りた。

「もー階段はゆっくり降りなさいって

 何度言ったらわかるの?!

 けがしてもお母さん知らないからね。」

そう、僕は元気が良すぎて

家でもよく怒られていた。

「でも、お兄ちゃん。

 本当に一人で行けるのー?」

「だって、おれはみのるみたいに

 泣き虫じゃないもんなー。」

そう、真白とみのるはよく泣いていた。

「でも、今日は真白ちゃんのお母さんの手作りケーキが

 食べれるもんねー。僕、泣き虫で良かったー。」

「もう!みのるも余計な事を言わない!」

母さんが、みのるの頭をたたくふりをしながら言った。

「じゃあ、行ってくるね!」

「行ってらっしゃい、気をつけるんだよ!

 それと着いたらちゃんと電話しなさいよ!」

「わかってるって!」

これが、母さんとみのるとの最後のお別れになるとは

その時の僕には、想像つくはずもなかった。

僕は車に乗る前に父さんに言った。

「真白に、今日は行けないって伝えてくる!」

父さんは、車の運転席から笑顔で頷いていた。

僕の家から、真白の家まで走れば1分もかからない。

僕は、真白の家の玄関の前でインターフォンを鳴らしながら大きな声で呼んだ。

「まーしーろー。」

家の中から、バタバタという音が聞こえた。

すると玄関の扉が開いた。

「あら!裕作くん。

 こんにちは!今日は宜しくねー。」

真白のお母さんだった。

「それが、おばあちゃんの家に行くのが

 1日早まっちゃって、今日行けないんだー。

 それを真白に伝えに来たんだ!」

「えっ!?裕作くんは来れないの!?」

一瞬だが、いつもの真白のお母さんの優しい表情が消えた。

今、思えば理由は想像がつく。

そう、僕も一緒に殺す計画だったからだ。


この日、僕が知っている事はここまでだった。

真白の家で、あの晩何が起きたかは 僕は知らなかった。


しかし、僕の家族が真白の母親に殺されたという事実だけは知っていた。



















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