2008年12月18日木曜日

ノンタイトル~最終話~

2008年12月17日 水曜日

相模原駅で電車を下りた。

外は少し冷えて来た。

人ごみをすり抜けて、改札口を出ると

すぐに花屋に向かった。

墓前に供えるためだ。

準備の整った僕は、墓地へと向かった。

冷たい風が、僕の頬をさす。

今日は、僕の家族の命日だ。

しかし、それは真白の23歳の誕生日でもあった。


墓地は、静まり返り寂しげな雰囲気に包まれていた。

奥から3列目。

真ん中の通路から右に3つ目の墓。

僕は記憶を辿りながら、お墓の前についた。

高橋家之墓。

そう、ここに僕の家族が眠っている。

あの日、人生の時間を人為的に止められた3人が。

僕は墓前で手を合わし、目を閉じた。

「父さん、母さん、みのる。

 僕はちゃんと胸を張ってみんなに顔むけできるような人間だろうか。

 僕は無駄な人生を過ごしてしまった。

 せっかく父さんと母さんからもらった命。

 そして、3人からもらった命。

 僕は、それにふさわしい人生を送って来れなかった。

 自分の心が弱かったばかりに。

 それに僕は、大切な人までも傷つけた。

 僕は最低な人間です。

 でも、今からでも変われるのかな。

 今からでも、遅くはないのかな。

 父さん、母さん、みのる。

 教えて欲しい。

 それにこんな僕を、父さんと母さん、みのるは許してくれるのかな。」

ふたつ合わせた僕の手は、悲しみに打ち震えていた。



「今度は、私が守るから!」

一瞬、声が聞こえた。

僕は、ゆっくりと目を開け声の聞こえた方に目を向けた。

「真白!?」

僕は、息を飲んだ。


そこには、まぎれもなく彼女が立っていた。

僕は目を疑った。

彼女の今にも溢れそうな涙が、そのきれいな目を一層輝かせていた。

もうすでに僕の頬には、涙がいく筋にもなって流れていた。


僕の涙は、止まらなかった。

真白はゆっくりと僕の方へ近づいてきた。

そして僕の前で立ち止まった。

彼女の目にも、涙が溢れてた。

その雫たちは頬をつたって流れおちていた。

そして彼女は自分の両手を、僕を包み込むように背中へとまわした。

それはまるで母の胸で泣いていた時の、あの感触のようだった。

人の温もりが、こんな程にも温かい事を僕は忘れていた。

真白の体の温もり。

それは、彼女の優しさの温度だった。

「真白、ごめん。本当に。おれは・・」

僕の言葉は、まるで言葉にならなかった。

僕は、真白の中で声を上げて泣いた。

今まで押し殺して来た全てを、放出するかのように。

僕の心は自由を取り戻していた。

だから真白の前でも涙が止まらない。

あの日以来、初めてだった。

こんなにも自然に涙が込み上げてきた事が。


「ゆっくり歩いて行こ。

 無理しなくていいんだから。」

真白のその言葉も、

真白のこの香りも、

全てが僕を優しく包み込んでくれていた。







2008年12月24日 水曜日

これで終わりじゃない。

これが始まりなのだ。

そのために、どうしてもしておかなければならない事があった。


徐々に、見えて来た。

あれが、そうだ。

横浜市郊外

あそこに真白の母親がいる。

建物の周りは大きな塀と鉄柵で囲まれていた。

僕は、どうしても真白の母親に会う必要があった。

彼女の母親の謝罪を受け入れるために。

それで全てが終わるのではない。

これで、新しい未来が始まるのだから。

僕の目に映る景色。

それは全てが色鮮やかに見えた。

空の色。

草木の色。

花の色。


その全てが、まるで僕の住む世界が変わったかのように美しく映っている。


「本当に大丈夫?」

「大丈夫。もう心配いらないから。」


僕は、ふと空を見上げた。

小さい雲たちがつらなって、追いかけっこをしているように見えた。

僕は本当の意味での強さが、やっとわかった気がする。

それに気付くのには、あまりにも長い時間が過ぎ去ってしまった。

しかし彼女がいなければ一生、気付けなかったかもしれない。

いや、気付けなかったに違いない。


僕はふと自分の左手をみた。

その手は、しっかりと彼女の手を握っている。

彼女の笑顔とこの香りは、今も僕を包み込んでいた。















そして3年後。

「高橋、あの原稿の情報収集は終わったのか?」

葉山主任が言った。

「すみません、今からやります!」

大学卒業後、僕は新聞社に入社した。

やっと、仕事にも慣れてきた所だ。

「じゃあ、資料室に行って来い。」

「はい!」

僕は資料室へ向かった。

資料室に着くなり、次に書く原稿に必要な情報を集めていた。

僕は、もう10年程前のゴシップ誌をぱらぱらとめくっていた。

すると、あるページで目が止まった。

”スクープ!母親を悪魔に変えた、もうひとりの悪魔!”

僕は、その記事に目を通し始めた。


「1996年12月17日

 前文省略

 勤務していた病院の同僚からの証言によると

 事件の1年程まえから、広瀬雪乃容疑者と交際していた男性がいたという。

 しかし、その男は事件の1週間前に広瀬雪乃容疑者の前から姿を消した。

 そしてその男は、広瀬雪乃容疑者の財産をだまし取った疑いが浮上している。

 それが引き金で、あの悲惨な事件が起きてしまったのか。」



「こんなゴシップ誌を誰が・・・信じるもんか。」

しかし僕の中から、とてつもない怒りと憎悪がこみ上げていた。

雑誌を持つ僕の手は、怒りで打震えている。


僕はその雑誌を手に、カバンと上着を取りにデスクに戻った。

主任には、取材に行くと言い残して僕は会社を出た。

向かった先は東京。

僕は携帯電話を取り出し、発信ボタンを押した。

その相手は真白だ。

「やっと見つけたよ、全ての悪の根源を。」


僕はこの時、まだ知らなかった。

あの事件の本当の終わりが、これから起こる事を。




〜ノンタイトル 第1部 完〜























 






3 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

執筆おつかれ~^^
なかなか楽しく読ませてもらったよ!
次回の火曜サスペンス劇場は
やっぱり火曜日スタート?

tomo さんのコメント...

あなたが初めての、小説へのコメント者です!

さて、私の小説は火サスじゃありませんから!

だから火曜日以外の曜日からスタートしたいと思います。

でも、長い一ヶ月だった。

読んでくれてほんと感謝してるよ!

ありがとね!

次回作も楽しみにしててよー!

tomo さんのコメント...
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