2009年2月15日日曜日

急行列車4

「いやいや、僕とした事が失礼。

 レディに声をかける前にまずは

 名前を名乗らなければならなかったね。

 僕は、平 勉三。

 学校では、HEY 勉三と呼ばれててねー。

 人気があるんですよ、すごく。」

なんだ、あの口調は!

まるで、50過ぎのおっさんではないか!?

勉三という名の男は、相手によって

キャラを変えてしまうとでもいうのか。

やはり、あの瓶底眼鏡の秘めた力を甘くみてはいけない。

「明日はね、早朝から模擬試験があるから

 今日は、ホテルで1泊するんだ。

 もし君がよければ、今夜僕の部屋で

 情熱の枕投げでもどうかな?」

おいおい、それを言うなら

僕の部屋で、モーニングコーヒーだろ!?

あいつは、どこかピントがずれている。

「いや、私。

 本当に困るんです。」

そうだ、あんな奴に絡まれて

嬉しい人間等、この世にいるはずがない。

「そうか、そうか。

 君は、僕の素性を非常に知りたがっている。

 なぜなら、君は恋に臆病なティンカーベル。

 そんな心の傷に、そっとマキロンで消毒してあげるが

 この僕なんだよ。

 ちなみにこの僕は、

 東大合格、間違いなしと言われる

 誰もが羨む、高校2年生なんだ。」

だから何だっていうんだ。

こいつの考えている、話の終着駅が全く見えない。

ただ世間話をしたいのか

本当に隣に座る女性を口説きたいのか。

でも、やっぱりマキロンはない。

口説き文句にそんな単語は絶対に必要がない。

「私、そういうのじゃないですから。

 もう本当に構わないで下さい。」

彼女は何て、しおらしい女性なんだ。

今時の子なら、怒鳴って怒る所だろう。

しかし、彼女の断り方にはどこかしら

女性の優しさを含んでいるように感じる。

彼女を助けてあげたい。

なんとか、あの害虫から救ってやりたいと

心の底から思い始めた。

すると、さっきまで口説き散らしていた

瓶底眼鏡の様子が変わった。

「なんか、さっきつぶつぶ入りのオレンジジュースを

 一気に飲み過ぎたせいか、トイレに行きたくなっちゃたなー。

 おーっと、レディの前でおトイレは禁句だったね。

 ちょっと、僕はそこまで木イチゴでも摘み取りに行って来るよ。

 君だけのピーターパンは、ネバーランドからすぐに戻るから

 少し辛抱して、待っててね!」

そう言いながら、あいつは席を立って歩いていった。

何が木イチゴだ。

ただトイレに行くだけだろ!

極めつけは、ネバーランドが何だ。

おまえの恋のお相手探しの旅こそがネバーエンドだ。

そして僕は立ち上がり

あいつがいない隙を狙って、彼女に話かけた。

「おれは君を助ける。

 次の駅に着く前のアナウンスが流れたと同時に

 おれは君に話しかける。

 君は、おれの話に適当に合わせるんだ。

 わかったね?」

彼女は、驚いた表情を見せたが

次第にその表情が柔らかくなっていくのを

僕は感じていた。

そしてそれと同時に、僕に稲妻が走っていた。

そう、人目惚れをしてしまった。

今まで、一匹オオカミで生きてきたおれは

初めて、側にいて欲しいと思った。

おれはあいつが戻る前に席に戻った。

それから5分ほどして、あの瓶底眼鏡は戻ってきた。

「お待たせ!

 寂しかったよね。

 ごめん、こんなかわいいレディを

 ほっておいて、僕はどうかしていたよ。

 素直に、アイム ソーリー。」

おいおい、それはチェッカーズの曲のタイトルだろ。

しかも、高校生が何でそんな古い曲を知っているんだ。

こいつの日常生活が少し気になってきた。

「次は、学園前、学園前。」

社内アナウンスが流れた。

おれは立ち上がった。

まずは自分の荷物を上のネットから下ろした。

そして、

「あれ!?長原ー?」

おれは彼女に声をかけた。

彼女は一瞬驚いていたがすぐに

「あっ、はい。」

と答えてくれた。

「おれだよ!塚本だよ!

 高校の時に同じクラスだった!」

何となく彼女は、話が読めたのか

おれの小芝居に少しずつ乗り始めた。

「塚本くん!?

 久し振り!

 元気にしてた?」

「ああ、元気にしてたよー。

 いやー懐かしいなー。

 それより、次の駅で

 長山と待ち合わせしてるんだけど

 もし時間があるなら少し顔出せよ!

 あいつ、絶対に喜ぶと思うからさー。」

その会話の途中も、瓶底眼鏡は呆気にとられながら

おれと彼女の顔を、行ったり来たりして見ていた。

「うん。行く、行く。

 なら私も次の駅で降りるよ。」

よし、これで完璧だ。

後は、彼女と一緒に電車を降りるだけだ。

初めから、あてのない旅だったから

どこの駅に降りようが、おれにとっては

さほど、大きな問題ではなかった。

そして、電車は駅に着いた。

彼女は、あの瓶底眼鏡の前をまたいだ。

「すみません。失礼します。」

そして彼女と二人で、あの瓶底眼鏡を背に

通路を歩いていった。

でも、背中が何故かすごく熱く感じた。

でも、その原因はすぐに想像がついた。

あいつの視線に決まっている。

オー マイ スイート エンジェール。

そんなような言葉が、後ろから聞こえたような気がしたが

おれは振り返らなかった。

そして二人は、駅の改札を抜けた。

「君、大丈夫だった?」

彼女をきちんと前にして思った。

やはり、とても綺麗な女性だ。

「本当に有難うございました。

 もう一時はどうなる事かと思ってました。

 本当に何てお礼をすればいいのか。」

なんて律儀な女性なんだろう。

今時の子にしては、珍しい。

グルグルグル。。

彼女は一瞬で、白い頬を真っ赤にした。

「お腹、空いてる?」

おれは彼女に聞いてみた。

「はい、今日はお昼から何も食べていなかったので。」

ふと向こうを見ると、黄色い看板がやけに目立つ焼肉屋があった。

すると彼女も、おれと同じ方向に視線を向けた。

そして察しがついたのだろう。

「もし、良かったら?」

「はい!喜んで!」

そしておれたちは、黄色い光の放たれる方へと歩いていった。







4 件のコメント:

son00 さんのコメント...

初めまして。あなたのブログ最高ですね。

匿名 さんのコメント...

これからもがんばって下さい

tomo さんのコメント...

匿名さん!

コメント、ありがとうございます!

時々、くじけそうになりますが

これからも頑張っていきます☆

応援、本当にありがとうございます!!!

tomo さんのコメント...

SON00さん!

コメント、ありがとうございました!

非常に地味なブログですが、

閲覧してくれて、本当に嬉しいです!

これからも地味に頑張っていきますので

応援よろしくお願いします☆