2009年2月14日土曜日

ミノ太郎。

僕は、ミノ太郎。

そう、僕はミノなのだ!

焼肉屋さんで、みんなに美味しく食べてもらうという

大きな使命を背負って生まれてきた。

今日は、とうとうその時がやってきました。

そして、とうとう注文が来た!

上ミノ1人前!!!

「おい、おい!

 とうとう来ちゃったぜ!
 
 ミノ太郎!

 俺たちが今まで生きてきた集大成だ!

 緊張する〜。」

ミノ吉は、とても嬉しそうだった。

「ねー、鉄板の上ってすごく熱いって聞いた事があるんだけど

 本当に大丈夫かなー。

 なんか、今になってちょっと心配になってきちゃった。」

ミノ子は、ミノ吉とは反対に心配そうな表情を見せた。

ミノ仲間でも、ミノ子はマドンナ的な存在だった。

僕も、彼女に夢中になった男の一人である。

「でも、僕は鉄板の上は温かくてすごく心地いいって

 聞いた事があるけどね。」

僕は、ミノ子の心配を少しでも和らげてあげたかった。

「でもさー、もし万が一だぜ。

 鉄板の隅っこで、ずっと食べてもらえなくって

 真っ黒焦げになったらどうする?」

ミノ吉は、またミノ子の心配要素を話に持ち込んだ。

さっき僕が、安心させたばかりなのに。

「大丈夫だよ。

 まずは鉄板にのせられた時の場所取りが肝心なんだよ。

 鉄板の真ん中にいても、火が強すぎてすぐに焦げる。

 けど、隅ッ子すぎても忘れられて

 気がつかれた頃には、真っ黒焦げ。

 そこで!

 真ん中と隅っ子のちょうど中間部分を

 陣取れるかが、鍵になる。」

これでも、僕は勉強熱心な方で、

この手の知識については

誰にも負けない自信を持っている。

「でもさー、落ち着いて考えてみろよ。

 俺たち、動けないんだぜ・・・」

ミノ吉の言葉をかぶせるような勢いで

ミノ子が言った。

「そうじゃん。

 私らはお皿から、鉄板に移し替えられるだけだから

 場所を陣取るなんて絶対に無理じゃない。

 それとも運にまかせろとでも言う気?」

ミノ子の視線は熱くなっていた。

でも、この質問を僕は待っていた。

「そこで!

 僕らは動く事はできない。

 しかし、お皿から鉄板に移し替えられた時の

 力をうまく使って、転がることはできる!」

すると、二人は一瞬に目を輝かせた。

「そうか!

 箸で鉄板にのせられる時の力を

 俺たちが逆に利用するって事だな!」

「うん!それならできる!」

二人は笑顔を取り戻した。

「で、ここで僕が一つコツを教えてあげよう!」

「コツって何だ?」

「何?早く教えてよ!」

焦る二人をなだめながら

僕はゆっくりと口を開いた。

「さっき言ったよね。

 良い場所を陣取ればいいって。」

「おい!もったいぶらずに早く教えろよー!」

「そうよー!いつも意地が悪いんだからー。」

二人の焦りもそろそろ頂点に達してきたようだ。

「まずは、皿を上げられる。

 そして皿を傾ける。

 その後に、僕らは鉄板へと投入される。

 今2番目に話した、皿を傾けた瞬間が肝心なんだ。

 その瞬間に、自分の理想とする絶好の場所を

 見極める。

 そして、鉄板に投入された瞬間に

 その場所めがけて、転がる!」

僕は、得意げに話した。

「そっか!皿が傾いた瞬間なら、鉄板の上が

 俺たちにも見えるからな!」

「で、後は目的地にめがけて転がればいいって事ね!」

二人は、すっかり元気を取り戻していた。

「そう!これで僕ら三人、美味しく食べてもらえるって事!」

「おまえは本当にすごいよなー!

 心の底から尊敬するよー!」

ミノ吉の、僕を見る目が変わったような気がした。

「心の底からって、心は心臓よ!

 私たちは胃袋!」

ミノ子は、元気のいいツッコミを入れた。

「そんな固い事、言うなよー!」

穏やかな時間が、三人を温かく包みこんでくれた。

「おっ、そろそろ本番みたいだぜ!」

気がつくと、目の前に大きなお皿が置かれていた。

そこに次々と、僕の知らない奴らが盛られ始めていた。

次は、僕らだった。






0 件のコメント: