2009年2月24日火曜日

ミノ太郎。〜感動のフィナーレ〜

僕らが乗った皿が大きく傾けられた。

そして、僕らは2本の大きな棒で皿の外へと押し出された。

「今だ!」

僕は力いっぱいに叫んだ。

先に鉄板へと落ちたのはミノ吉だ。

「すごいぞ!ミノ吉!」

ミノ吉は、押し出された力を利用して

思い切り転がった。

並のミノではできない超人技だった。

「おれについて来ーい!」

ミノ吉の声が聞こえた瞬間、僕とミノ子も

ほぼ同時に鉄板へと落ちた。

そして、僕らは絶好のポジションへ向けて転がった。

そう、鉄板中央と際の丁度中間地点。

目指す場所は、落下する瞬間に決めていた。

「少し、力を加減し過ぎたわ!」

ミノ子の速度は、どんどん弱まっていた。

「頑張れ!諦めるな!」

僕は、もう絶対に諦めない事に決めたんだ。

3人そろって、胃袋の中へ行くんだ!

ふと、ミノ吉の事を思い出した。

「ミノ吉、速度を落とせ!」

あのままでは彼は、限界地点を超えてしまう。

限界地点。

あそこを超えれば、もう鉄板には戻ってこれない

限界ラインの事だ。

「ミノ太郎!止まんねーよー!助けてくれー!」

ミノ吉が、助けを呼んでいる!

しかし、僕にはどうにもできない!

「誰でもいい!誰かにぶつかって速度を落とすんだ!」

僕も必死だった。

3人揃ってじゃないと、何もかもが無駄になってしまう。

そう、僕らがまだ幼かった頃だった。

「絶対におれたち、同じ鉄板の上で美味しく焼かれて

食べてもらおうな!」

ミノ吉の言葉は、熱かった。

「私たち、これからもずっと一緒って事ね!」

ミノ子はポニーテールを揺らしながら遠くへ目をやった。

「僕たちの友情は、鉄板以上に熱いね。」

そう僕らの友情は、この鉄板の温度よりも

遥かに熱かった。

だからこそ、みんなが無事に美味しく食べてもらわなければならない。

「ミノ吉ー!諦めないでー!あの時の約束を忘れたの!」

ミノ子もあの時の約束を忘れていなかった。

「だめだ!もうだめだ!」

限界地点が、ミノ吉に迫っている。

「ミノ吉ー!」

「ミノ吉ー!」

僕と、ミノ子は残る力を振り絞って叫んだ。




ついに限界地点を超えた。

「みんなー、おれの分まで絶対に・・・」



「ミノ吉ーーーーー














「ミノ吉ーーーーーーーーーー

















あいつはとても良い奴だった。

誰よりも熱く、誰よりも仲間の事を考えていた。

あいつもミノ子に惚れていた事も知っている。

でもあいつは、3人の関係が崩れる事を恐れて

決してそれを口にした事はなかった。









「ミノ吉ーーーーーーー!」













「あー、お肉が落ちちゃった。」

「しょうがないよ。もう食べられないから、そこの皿に避けておきなよ」

「うん。わかった。」











僕はどこにいるのだろう。

自分の立ち位置がわからない。

そんな事を気にかけていられなかったからだろう。

まわりを見渡すと、どうやら絶好なポジションとやらに

自分の身を置いている事に、気がついた。

「ミノ子は!?」

遠くから声が聞こえる。

「ミノ太郎ー!」

「どこだー!」

煙で、声のする方が見えない。

「多分、鉄板の真ん中らへんだと思う!」

良かった、とにかく鉄板の上にいる事は確認できた。

「中央部分は、温度が急激に上がっているから

 焦げる前に、自分をアピールするんだ!」

焦げてしまったら、ミノ吉の二の舞になってしまう。

「アピールって、何すればいいの!?」

「恋はしたことあるか?」

「えー!?何、こんな時に!」

唐突な質問だったかもしれないが

今はそんな事を言っている場合ではなかった。

「いいから、答えて!」

「あるわ、一度だけ!実らなかったけど!」

「よし、上等だ!なら、その時のことを思い出すんだ。

 あの甘酸っぱい思い出を!」

「わかった、少し時間をちょうだい!」

煙りの勢いが増してきた。

いくら絶好のポジションにいたって

食べる当人が、気にかけてくれなければ焦げてしまう。

さっきから、男の方はつまらない話ばかりしている。

瓶底が、どうのこうのやら、

まんじゅうとみかんが、どうのこうのと。

そんな事よりも、今焼いている

目の前のミノに集中してくれ!

「ミノ太郎!初恋の事を思い出してたら

 なんだか恥ずかしくって、体が赤くなってきちゃった!」

僕の計算に狂いはなかった。

彼女が恥ずかしくなって、体をうす赤色に染める。

それこそが、絶好のアピールなのだ。

どのミノよりも、美味しそうに見えるはずだ!

その時だった!

「ミノ太郎!箸が!?」

煙の向こうに、かすかだが見えた。

ミノ子の晴れ姿が。

彼女は、女性客の箸につかまっていた。

「ミノ子ーーー、おめでとーーーう!」

僕は、まるで自分の事のように嬉しかった。

ミノ吉が果たせなかった夢。

それを今、ミノ子が叶えようとしている。

「ミノ太郎!今まで、ありがとう!

 本当に、ありがとう!」

「ミノ子ーー!」

彼女は、女性客の口の中へとほうりこまれた。

「熱いけど、このミノ美味しい!」

女の客が、言った。

「じゃあ、おれもひとつ頂こうかな。」

と次の瞬間。

男の方の箸が、僕の方へと迫ってきた。

僕もこれで夢を叶える事ができるんだ。

ミノ吉、おまえの分までおれは・・・。


ん!?

隣のミノが、箸で持ち上げられ男の口の中へと入っていった。

僕じゃなかったんだ。

とんだ、早とちりだった。

しかし、そんな呑気な事を言っている余裕も

正直なくなっていた。

もうすでに、僕の背中がじりじりと焦げ始めていた。

早く!早く!

今が、絶好の食べ頃なんだ!

気付いてくれ!僕に!

「そうなんだよねー、

なんだかんだ言って、おれはあいつに感謝しなきゃいけないなー。」

なんだかんだ言ってないで、早く僕を食べてくれ!

「うん、私もちょっとは感謝かな。

 ちょっと、個性が強すぎたけど。」

おい、ここはなんかの感謝祭でもやっているのか。

そんな事を言っている間にも、背中からじわじわと

焦げが迫っていた。

「あっ、そろそろ裏返さないと。」

そして、ようやく僕を箸が捉えてくれた。

僕はそのまま裏返された。

「あーあ、このミノ焦がしちゃった。」

すると男が言った。

「動物性の焦げは、ガンの原因になるから

 それもこっちの皿によけておきなよ。」

そして、その箸はまた僕を捉えた。

僕は、鉄板から追い出され

真っ白な皿の上へと移しかえられてしまった。

僕は、夢を叶える事ができなかったのだ。

すまない、ミノ吉。

君の夢を、僕は叶える事ができなかった。

僕の体は、時間とともに冷えていった。
















ガサゴソ、ガサゴソ。

変な音がする。

僕は、どこにいるのだろう。

次の瞬間。

僕は、何かと共に流れ落ちた。

そこは、店の前の道だった。

どうやら、ゴミ袋に入っていたようだ。

野良犬は、僕を無視して他の食い物をあさっている。

僕は、このままこの道の上で人生を終えてしまうのだろうか。


その時だった。

僕は何者かに、踏みつけられた。

そして次の瞬間、大きな音と共に

僕の横で、誰かが倒れた。

「イターイ!何でこんな所にミノなんかが落ちてるんだよ!」

「足下には、注意しないとな。

 おまえにいつも言ってあるだろう。

 足下をすくわれるような、柔な大人になるなよって。」

「こんなミノ、どっか行っちゃえ!」

僕は蹴飛ばされ、道の向こうに流れていた川へと落ちていった。

水の中は、冷たかった。

しかし、どことなく心地よい感覚だった。

これから、僕はどこに行ってしまうのだろう。

ミノ吉、ミノ子。

今まで、たくさんの思い出をありがとう。

そして、さようなら。













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