2009年2月10日火曜日

急行列車3。

「間もなく、公園前駅、公園前駅でございます。」

社内アナウンスが流れた。

「やだー、もう私たち降りないと。」

たえ子が、残念そうな表情で言った。

「ビョンちゃんと、もうお別れなんて

 本当に寂しい!」

隣に座った女が言った。

もう彼女の名前も忘れてしまった。

そして彼女たちは、荷物をまとめた。

一通りの作業が終わると、

紙とペンを取り出して、何やら書き始めた。

その紙とペンは、3人にまわった。

書き終えたたえ子は、

「はい、ビョンちゃん。」

と1枚の紙を差し出してきた。

そこには、何とも恐ろしいものが

書き記されていた。

そう、それは彼女たちの

携帯番号とメールアドレスがメモしてあった。

おれはとりあえず、

「有難う。」

とだけ言っておいたが

その表情は、完全にひきつっていた。

電車は、駅に着いた。

「じゃあね!ビョンちゃん!

 連絡待ってるからね!」

3人は、声をそろえておれに言った。

「それじゃあ。」

やっと彼女たちが、去ってくれた。

これからが、本当のおれの旅が始める。

すると、彼女たちと入れ違いに

一人の女性がはいってきて

あの瓶底眼鏡の前に座った。

その女性を食い入るような眼差しであいつが見ている。

すると瓶底眼鏡は、荷物をまとめて

急いで、後方車両の方へと

フェイドアウトして行った。

とにかく、やっと平和な時間が訪れて

おれはホッとしていた。

その平和な時間も、あっという間だった。

瓶底眼鏡が後ろから戻って来た。

そして、

「ここか、ここか。

 あっすみません。」

と言って、さっきの女性の隣に座った。

あいつは今、乗り合わせてたまたま

彼女の隣の席の切符を持っているかのような

演技をして、自然にあの女性の隣の席を

勝ち取った。

なんてずうずうしい奴なんだ。

「君、素敵な目をしてるね。

 その瞳に僕は吸い込まれそうだよ。」

また始ったぞ、意味の通じないくどき文句が。


やっと平和な時間が訪れたが

一番やっかいな奴は、あの瓶底眼鏡だったようだ。

おれの旅は、本当にどうなってしまうのか。




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