2009年2月3日火曜日

急行列車。

冷えきったホームに

1本の電車が入って来た。

おれはベンチから腰を上げ、

ボストンバッグを手に取った。

おれは、この街を出て行く事を決意した。

もうここに戻る事はないだろう。

見送りの人間なんて、おれにはいやしない。

なぜなら、おれは孤独をこよなく愛している男だから。

しかし、おれには行く当てはなかった。

ただ、北へ向かい、

適当に流れ着いた先で、生活をしようと考えていた。

おれの孤独な独り旅が、今幕を開けたのだ。

そして電車の扉が開いた。

おれは、その電車に乗り込んだ。

3号車のEー3番席。


!?

座席が向かい合わせになっている。

しかも、50過ぎのおばちゃん3人が騒いでいる。

そして、空いているその席こそが

Eー3番席なのだ。

「すみません、ここれの席なんですけど。」

おれの席は、おばちゃんの荷物置きになっていた。

「あらー、なんか若い男が来たよー。」

ひとりのおばちゃんがそう言うと

もうひとりのおばちゃんが

「もー、この子かわいいじゃなーい、

 あれ?なんだか、イ・ビョンホン様に似てない?」

すると3人は、更にテンションを上げ始めた。

「ビョンちゃん、早くここに座りなさいよー。」

「ほら!あんたもカバンを片付けてー。」

急に、おれの席のカバンを上にあげて

無理矢理、おれを座らせた。

「ねービョンちゃんは、どこまで行くのー?」

ばばあのくせにちょっと甘えた声でおれに聞いてきた。

「あー、とりあえず、北へ。」

「北!?危ないわよー、ビョンちゃん 北朝鮮なんてー。」

「ねー。」

3人は、同じタイミングで頷いた。

こいつら、完全におれを韓国出身とはき違えている。

おれは、れっきとした日本人だ。

「たえ子さん、ビョンちゃんにみかんでも。」

たえ子と呼ばれた、おばちゃんがおれにみかんを差し出した。

「あっ、すみません。」

とりあえず、礼を言っておいた。

孤独な独り旅なのに、なぜおれはこんな奴らと一緒に

電車に乗っているんだ。

「みつ代さん、おまんじゅうがあった、おまんじゅうが」

みつ代と呼ばれたおばちゃんは、思い出したかのように

ふろしきから、まんじゅうを取り出した。

「ほら、おまんじゅう!若い子って本当に良く食べるから

 私、大好きだわー。」

右手にみかん、左手にまんじゅうを持ったおれは

誰がどう見たって、食いしん坊だ。

この状況を、どう打開して行けばいいか

おれは、必死に考えていた。











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