彼らの体力も精神力も限界に近づいていた。
「俺たち、いつここから出られるんだよ」
今にも消えてしまいそうな声で鉄夫はつぶやいた。
「もう出られないかもな」 修一郎は答えたが壁を見つめたまま視線をそらさなかった。
タエ子は、うずくまったまま彼らのやりとりを画面の向こう側から観ているような錯覚に
陥っていた。
食料は、コップ2杯の水とコイケヤのポテトチップス。
たったこれだけで生き延びられる希望は、誰一人と持っていない。
外へ出られる道は、固く閉ざされた扉と、通気ダクトだけだった。
天井は、3M程度。彼らの身長は120㎝。小さすぎる。
「これが最後だ!みんなの力を合わせてこの扉をこじ開ける!」
修一郎が立ち上がった。そして鉄夫とタエ子が頷いた。
3人は、渾身の力で赤茶けた重い扉に立ち向かった。
「目一杯、押せー!」修一郎が叫んだ。
彼らの体からは、水を浴びたように汗が滲み出た。
「ちきちょー!ダメだー!」鉄夫は叫びながらも余す力を精一杯だしていた。
開かない。びくとも動かない扉は、無惨にも彼らをあざ笑うかのようにもて遊んでいた。
彼らはその場に崩れ落ちた。
着ていた服も、汗で色が変わっていた。
「せっかく......買ったお気に入りだったのに」 鉄夫は思い出していた。
パソコンが不得手な彼がパソコンに向かっていた。
彼は、最近注目を浴びて大人気のTシャツをネットで購入しようとしていた。
鉄夫はパソコンに向かい、慣れない手つきでキーボードをひとつひとつ丁寧に叩いた。
それは世界的にも大人気のTシャツの専門サイトだった。
続く
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