白かった壁は、タバコの煙のせいか黄色増した色のキャンバスのようだった。
天井に吊られた蛍光灯の灯りも、タエ子だけを照らしていた。
「なぁ、修一郎。もしここから出られたら一番に何したいんだ?」
鉄夫はこの重苦しい雰囲気を変えたかった。
「そうだぁ。のほほん工房ってブログ知ってるか?tofuって奴が書いてるんだけど。」
「私もよく観てる、すごい好き」
タエ子の瞳が、久しぶりに輝いていたかのように修一郎には見えた。
「知らなねぇな、おれは。」鉄夫が少しぶっきらぼうな口調で答えた。
「私、何度あのブログで励まされたか。思い出したらなんか少し元気がでてきた感じ」
「私、もう一回挑戦してみる。だってみたいもん!のほほん工房!」
タエ子が立ち上がり、扉の前に近づいていった。
そして、ドアノブに手やり思い切り押そうとした瞬間、彼女のヒールが折れた。
同時に彼女は体勢を崩し、後ろへ倒れかけたその時だった。
扉の向こうから光が射した。
「ドスン!」 鈍い音がした。
「痛ーい!」 タエ子は倒れた。
しかし修一郎と鉄夫はそれどころではなかった。
「開いたぞー!開いたぞー!出られるぞー!」
二人は歓喜の声を上げた。
「なんで?なんで?この扉、PUSHってかいてあるのに押すんじゃなくて、引くって事!?
ならPULLじゃん!」
タエ子は、少し怒ったような表情をみせた。
「でも、これでトリックは解けたな。」
鉄夫は答えた。
「ああ、俺たちは正直 押す事しか考えてなかった。でもどれだけ押しても開かない訳だ。」
修一郎は深く息をはいた。
そして三人は、扉をくぐり表にでた。
何日ぶりだろうか。街の景色がやけに懐かしく感じた。
通りの向こうの時計台の針は、午前3時を指していた。
〜Fin〜
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