2008年8月12日火曜日

暴かれた午前3時 終章

部屋のカーペットには、いくつかの机と椅子の後を残し

白かった壁は、タバコの煙のせいか黄色増した色のキャンバスのようだった。

天井に吊られた蛍光灯の灯りも、タエ子だけを照らしていた。

「なぁ、修一郎。もしここから出られたら一番に何したいんだ?」

鉄夫はこの重苦しい雰囲気を変えたかった。

「そうだぁ。のほほん工房ってブログ知ってるか?tofuって奴が書いてるんだけど。」

「私もよく観てる、すごい好き」

タエ子の瞳が、久しぶりに輝いていたかのように修一郎には見えた。

「知らなねぇな、おれは。」鉄夫が少しぶっきらぼうな口調で答えた。

「私、何度あのブログで励まされたか。思い出したらなんか少し元気がでてきた感じ」

「私、もう一回挑戦してみる。だってみたいもん!のほほん工房!」

タエ子が立ち上がり、扉の前に近づいていった。

そして、ドアノブに手やり思い切り押そうとした瞬間、彼女のヒールが折れた。

同時に彼女は体勢を崩し、後ろへ倒れかけたその時だった。

扉の向こうから光が射した。

「ドスン!」  鈍い音がした。

「痛ーい!」 タエ子は倒れた。

しかし修一郎と鉄夫はそれどころではなかった。

「開いたぞー!開いたぞー!出られるぞー!」

二人は歓喜の声を上げた。

「なんで?なんで?この扉、PUSHってかいてあるのに押すんじゃなくて、引くって事!?
 
 ならPULLじゃん!」

タエ子は、少し怒ったような表情をみせた。

「でも、これでトリックは解けたな。」

鉄夫は答えた。

「ああ、俺たちは正直 押す事しか考えてなかった。でもどれだけ押しても開かない訳だ。」

修一郎は深く息をはいた。

そして三人は、扉をくぐり表にでた。

何日ぶりだろうか。街の景色がやけに懐かしく感じた。

通りの向こうの時計台の針は、午前3時を指していた。

       〜Fin〜

0 件のコメント: