2010年3月4日木曜日

ビデオレター その2

トップアイドル 長浜 加奈の

プロモーションビデオを買ったが

いっこうに加奈ちゃんが出てこない。

そのかわりに

変なおじさんとおばさんが出演している。


おじさんが、みかんを食べ終えたタイミングで

おばさんが言った。

「本当にテレビの前のみんな、ありがとねー!

 娘をこれからも応援してやって下さいねー!」

やっと、理解ができた。

この変なおじさんとおばさんは

加奈ちゃんのご両親だったのだ。

となれば、話は別だ。

このおじさん・・・。

いや!?

このお父様とお母様が

出会って恋に堕ち

結婚して加奈ちゃんを

産んで下さらなければ

僕は何の生き甲斐のない人生を送っていただろう。

だから、このお父様とお母様には

感謝してもしきれないご恩があるのだ。

そしてお母様は続けて言った。

「でも今日は残念で

 加奈ちゃんの本当のお母さんは

 風邪で来れなかったのよねー。

 だから私は代役でーす!」

もういい加減に、加奈ちゃんを出してくれ!

なんで、さっきまでの感謝の気持ちを

返してくれ!

こんな意味のわからない夫婦を観ている

無駄な時間は僕にはない。

次にみかんを食べて幸せいっぱいの顔をした

おじさんが、言った。

「加奈ちゃんのお父さんも

 風邪で、この代役の

 よしこさんの旦那さんも風邪で

 わしは代役の代役でーす!」

こいつら夫婦じゃないのかよっ!

苛立も頂点に達した僕は

リモコンを手に取り

早送りと書いてある

ボタンを押した。

おじさんとおばさんは

動きが早くなったものの

漫才師の漫談のような

立ち振る舞いは変わらず

ビデオデッキの液晶の時間は

いつの間にか40分を超えてた。

そして怖いもの見たさという

衝動が僕を襲い始めた。

そしてついに僕は再生ボタンを押してしまった。

「昨日食べた、しじみのお味噌汁が

 ほんと、美味しくて私 2杯もおかわりしちゃって〜。」

おばさんは嬉しそうにカメラの前で話す。

そしておじさんは

「そりゃ、ぎょうさん飲みはったなー。」

と言っている。

早送りしていた間、こんなつまらない会話を

ずっとしていたのか?

「今日はねー、みなさんにお知らせがあります!

 この隣のお父さんが

 1週間前の町内会のカラオケ大会で

 優勝したんですよー!」

とおばさんが言うとおじさんはガッツポーズをしながら

「やったぞー!お父さんやったぞー!」

と吠えた。

おまえは一体、誰のお父さんなんだ。

「じゃあ、本日は特別に

 優勝を飾ったあの名曲を

 歌って頂きマース!」

おばさんは、エプロンの大きなポケットに

はいっていたマイクをおじさんに渡した。

すると、どこからか安っぽい乾いた音楽が流れ始めた。

「曲は、鳥羽一郎さんの兄弟船です!」

おばさんのかけ声と共に

おじさんが3歩ほど前にでて

歌い始めようとしたその瞬間だった。





















僕は早送りボタンを押した。

その後も、おじさんとおばさんが

自然の中で立っている光景は

いっこうに変わらなかった。

そして、ビデオは最後まで終わり

勝手にテレビの画面に切り替わった。

ちょうど、化粧品のCMで

長浜 加奈が

艶っぽい大人の顔をして

ポーズをとっていた。

あのプロモーションビデオは何だったのだろうか。











おわり。。。










 

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