2009年11月15日日曜日

僕の大切なもの 第1話

窓ガラスから、差し込む光は

お姉ちゃんの白い肌を

さらに透き通るような色にして

このまま消えてしまいそうな

そう、あの太陽がお姉ちゃんを連れて行ってしましそうな

僕にそんな予感を抱かせる。

でもそんな事は、絶対に僕は許さない。

僕が絶対にさせないんだ。







5時間目のチャイムと共に

ランドセルに、教科書やノートを乱雑に詰め込んだ。

そして急いで教室を飛び出し

お姉ちゃんが入院している病院へと向かった。

病院は、学校から割と近い場所に位置し

走って10分程度の距離だった。

病院の自動扉を抜けると

大きな受付カウンターを過ぎ、その右手にある階段を勢い良く駆け上った。

「裕太郎くん、こんにちは!

 廊下は走っちゃだめよ!」


「はーーい!」

すれ違いざまに、声をかけてきたのは

看護士の横山さんだった。

僕は廊下を早歩きで移動し

306号室の扉を開いた。


「あら、おかえりなさい。

 今日も早かったわねー。」

お母さんは、花瓶を両手に抱え

テーブルの上に丁寧に飾っていた。

「今日も相変わらず元気なんだから。」

お姉ちゃんはベッドから、少し起き上がりながら言った。

「おれは、元気だけが取り柄だけらね!

 お姉ちゃんみたいに、勉強はできないけど。」

僕は、今日返してもらったテストの点数を思い出しながら答えた。

相変わらず点数は良くなかったからだ。

「裕太郎も、ちゃんと勉強すれば

 お姉ちゃんみたいになれるのよ!」

すかさず、お母さんが僕に小言まじりの言葉で攻めてきた。

「はーーい」

僕はそう言いながら、お姉ちゃんの方を見て舌を出した。

お姉ちゃんはくすくすと笑っていた。

「でも裕太郎。

 そうやって健康で元気にいられるって事は

 本当に幸せな事なのよ。

 それだけは、絶対に忘れちゃだめだからね。」

お姉ちゃんは、真剣な眼差しで

僕にそう言った。

その瞳の奥に、悲しみや悔しさがいっぱい詰まっている事を

まだ小学生の僕にも、見えていた。

「わかってるよ、お姉ちゃん!

 でも大丈夫、絶対にお姉ちゃん元気になるから!

 だって、僕にはわかるもん!」

その時の僕は、そう信じていた。

疑うものは何もなかったから。

だけど、お父さんとお母さんは

お姉ちゃんの命の炎が

だんだん弱くなって、

そしていつか消えてしまう事を知っていた。











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